2019 Fiscal Year Annual Research Report
Exploring dark matter, dark energy and stochastic gravitational wave with Subaru precision cosmology
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19H00677
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 昌広 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (40374889)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮武 広直 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (20784937)
西道 啓博 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (60795417)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ダークマター / ダークエネルギー / 背景重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
すばる望遠鏡の広天域銀河サーベイは、日本が主導して行う初めての宇宙論サーベイである。このすばる宇宙論データから、ダークマター、ダークエネルギー、ニュートリノの質量、また背景重力波などの物理を究明することが本研究の目的である。本研究課題期間中には、(1)大規模数値宇宙論データをデータベース化し、宇宙の構造形成の宇宙論観測量を高速かつ高精度で計算できるエミュレータを開発する。(2)すばるデータの宇宙論観測量から上述の物理量をローバストに測定するための物理解析手法を開発する。このとき、素粒子実験の分野では浸透している、ブラインド解析の手法を宇宙論解析に導入する。 2019年度の主な成果は以下のものである。(1)現在進行中のすばるHyper Suprime-Cam (HSC) の宇宙イメージングサーベイのデータを用い、宇宙構造による重力レンズ効果を測定し、宇宙論モデルと比較することにより、宇宙論パラメータを制限することに成功した (Hikage et al. 2019)。すばるHSCの示唆する宇宙は、宇宙背景放射の宇宙モデルと若干の矛盾が見られ、標準模型を超える新しい物理の兆候を示している可能性がある。今後のデータによる統計精度を上げた追測定による結果が待たれる。(2) 約200TBにも及ぶ構造形成のN体シミュレーションのデータベースを構築し、銀河、銀河団が形成される領域と考えられるダークマターハロー(自己重力系)の宇宙論統計量を高速かつ高精度に計算するエミュレータの構築に成功した。一つの宇宙論モデルで、N体シミュレーションを走らせ、宇宙論統計量を測定するには数日必要となるが、このエミュレータは1秒程度で同じ宇宙論統計量を計算することを可能にする (Nishimichi, Takada et al. 2019)。業界では大きな注目を集めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、すばる望遠鏡の大規模データを念頭に、ダークマター、ダークエネルギー、ニュートリノ質量を測定し、また背景重力波を制限することである。これを行うためには、宇宙構造形成の宇宙論統計量を正確に予言する理論モデルの整備がある。これにより、すばるデータの高精度の宇宙論観測量を用い、日本主導の精密宇宙論を実現することができる。すばる初年度のデータを用いた宇宙構造による重力レンズ効果の測定と理論モデルを比較することにより、宇宙論モデルの物理パラメータを制限することに成功した。この成果では、素粒子実験あるいは薬学の業界で導入されているブラインド解析を日本の天文学研究では初めて導入し、客観的かつ慎重に宇宙論パラメータを測定し、説得力ある成果を業界に発表することができた。すばるのデータは、アインシュタインの宇宙定数の宇宙モデルを支持しているが、宇宙背景放射の測定結果とは若干の矛盾を示し、新しい物理の可能性を示唆している。また、大規模数値宇宙論のデータベースを構築し、宇宙論統計量を高速かつ高精度に計算できるエミュレータを構築できた。これは世界の他のグループに比較して、圧倒的に高精度で、また汎用性の高い、かつ応用範囲の広いエミュレータである。すでに応用の一例として、すばるデータで同定した宇宙最大の自己重力系である銀河団のサンプルについて、その重力レンズ効果の測定結果と、エミュレータの予言を比較することにより、銀河団の質量分布(主にダークマター)を制限することに成功した。このエミュレータを用い、すばるのデータの宇宙論観測量から宇宙論モデルを制限する準備研究を進めている。2020年度には、その研究成果を導出する予定である。 以上の理由により、大きな研究成果が出せただけでなく、多くの論文を発表できているので、順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、これまでに開発してきたエミュレータをすばるデータの宇宙論観測量と比較し、宇宙論モデルの物理パラメータを制限する研究を進める。これは、すばる観測量と、6次元パラメータ空間で与えられる各宇宙論モデルの関数として大規模N体シミュレーションを走らせ、その疑似宇宙から宇宙論統計量を測定し、それをすばるデータの観測量と比較し、理論モデルの合否を判定するという作業と同等である。高速エミュレータがあって初めて有限の時間内で可能になる研究である。客観的かつ説得力ある結果を導出するために、ブラインド解析を用い、宇宙論物理解析を行う。また、米国、台湾、国内の研究者と協力して、慎重に研究を進める。 また、すばるデータによる宇宙構造の重力レンズ効果の観測量には、背景重力波がソースとなる効果が生じる可能性がある。逆に、すばるデータの重力レンズのBモードを調べることにより、宇宙論スケールの波長にわたる背景重力波の存在を制限することができる。宇宙背景放射(~1Gpc以上)と天の川銀河内の中性子星までの距離(~1kpc)のあいだの波長の背景重力波の観測による制限は皆無であり、すばるデータを用い、世界で初めて背景重力波を制限する研究を進める。
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Research Products
(63 results)