2020 Fiscal Year Annual Research Report
Exploring dark matter, dark energy and stochastic gravitational wave with Subaru precision cosmology
Project/Area Number |
19H00677
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 昌広 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (40374889)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮武 広直 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (20784937)
西道 啓博 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (60795417)
正木 彰伍 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (80826280)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ダークマター / ダークエネルギー / 背景重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
すばる望遠鏡の広天域銀河サーベイは、日本が主導して行う初めての宇宙論サーベイである。このすばる宇宙論データから、ダークマター、ダークエネルギー、ニュートリノの質量、また背景重力波などの物理を究明することが本研究の目的である。本研究課題期間中には、(1)大規模数値宇宙論データをデータベース化し、宇宙の構造形成の宇宙論観測量を高速かつ高精度で計算できるエミュレータを開発する。(2)すばるデータの宇宙論観測量から上述の物理量をロバストに測定するための物理解析手法を開発する。このとき、素粒子実験の分野では浸透している、ブラインド解析の手法を宇宙論解析に導入する。 2020年度の主な成果は以下のものである。(1) 長波長スケールの潮汐力場が銀河の形状に特徴的な系統的な歪みを引き起こすことを明らかにした。特に、非等方的な原始非ガウス性が、銀河の形状にスケールに依存した歪み効果を引き起こすことを世界で初めて明らかにした(Akitsu et al. 2021)。原始非ガウス性はインフレーションの物理、また原始重力波とも関係があり、非常に興味深い結果である。(2) 大規模シミュレーションデータを用い、赤方偏移空間の銀河クラスタリングの2点相関関数(パワースペクトル)を高精度、高速で計算するエミュレータを構築した(Kobayashi et al. 2020)。(3) 開発した宇宙論エミュレータ、また宇宙論の物理解析手法のロバスト性、正確性を定量的に評価した (Nishimichi et al. 2020)。(4) 開発した宇宙論エミュレータ "Dark Emulator"を全世界に公開した (https://darkquestcosmology.github.io)。今後業界で広く使われると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
宇宙の大規模構造中における銀河形状の固有歪み(Intrinsic Alignments: IA)は、宇宙論の新たな手法になり得る。本研究グループは、大規模宇宙論シミュレーションのデータを用い、IAの特性を定量的に調べ、その有効性を実証した(Kurita et al.2021)。特に、非等方的な原始非ガウス性がIAのパワースペクトルにスケール依存した特徴的な信号を引き起こすことを世界で初めて示した (Akitsu et al. 2021)。非等方的原始非ガウス性は、インフレーションの物理、また背景重力波の物理に関係しており、その学問的意義は非常に高い。 本研究グループは、宇宙論シミュレーションの大規模データを用い、広天域銀河サーベイから得られる弱重力レンズ、銀河クラスタリング統計量のパワースペクトルを高精度かつ高速に計算できるエミュレータを開発した(Sugiyama et al. 2020; Kobayashi et al. 2020)。実際のデータに適用したときの有効性を定量的に示している。また、米国のグループとの国際共同研究を立ち上げ、銀河クラスタリングの観測量による宇宙論の有効性、ロバスト性をブラインド解析を用いて定量的に調べた(Nishimichi et al. 2020)。 本研究グループが開発してきた銀河クラスタリング統計量のエミュレータ"Dark Emulator"を全世界に公開した(https://darkquestcosmology.github.io)。このエミュレータを用いることにより、すばるHyper Suprime-Camサーベイをはじめとする広天域銀河サーベイの宇宙論データと実質的に高精度宇宙論シミュレーションを直接的に比較することが可能になる。 2020年度は、本グループは20編を超える論文を発表しており、本研究は極めて順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行中のすばるHyper Suprime-Cam (HSC)の大規模宇宙イメージングサーベイは、口径8.2mのすばるの集光力、広視野、高い結像性能のために、宇宙の大規模構造による弱重力レンズ効果を測定するには世界最高のデータである。このHSCサーベイは、日本、台湾、プリンストン大学との国際共同研究で進めている。本研究グループのリードの下、このHSCデータとSloan Digital Sky Survey (SDSS)の分光銀河カタログを組み合わせ、弱重力レンズ効果を高精度に測定している。このHSCデータから観測した宇宙論統計量と上述のDark Emulatorの予言を比較し、冷たいダークマターモデル (ΛCDM) のダークマターの総量、ゆらぎ(物質分布の非一様性)などの宇宙論パラメータを測定する研究を進めている。つまり、この研究はHSCデータと大規模宇宙論シミュレーションを直接的に比較することと同等であり、世界で初めての試みにである。先行研究と一致するような結果を得ようとするなど「認証バイアス」(confirmation bias)をできるだけ避けるために、この物理解析は素粒子実験、医学の分野で浸透しているブラインド解析を採用し、この研究を進めている。本研究グループは、様々な系統誤差のテスト、HSCデータの模擬カタログを用いた物理解析手法のテストなどを系統的に進めており、この研究は最終段階を迎えている。2021年度内に、このHSCデータを用いた宇宙論パラメータの測定の研究を完遂する。特に、宇宙背景放射データから得られた宇宙論モデルとの整合性など、宇宙の標準模型を超える物理の可能性を探究し、ダークマター、ダークエネルギーの性質を制限することを目指す。
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Research Products
(45 results)