2021 Fiscal Year Annual Research Report
Effects of toxic flatworms on toxification of pufferfish - Who is the true TTX producer?
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19H00954
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
糸井 史朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30385992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅川 修一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30231872)
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90304972)
鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70409069)
岩田 繁英 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (80617316)
周防 玲 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (20846050)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フグ毒 / テトロドトキシン(TTX) / ツノヒラムシ属 / ゲノム解析 / 毒化機構 / オオツノヒラムシ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでフグ毒(TTX)保有生物の毒化は、海洋細菌から始まる食物連鎖を通してフグ類などのTTX保有生物の体内に蓄積されるとの考え方が定説になりつつあった。一方で、海洋細菌により産生されるTTXはきわめて微量なのに対し、フグ類が持つTTXの量がきわめて膨大なことから、フグ類へのTTXの供給者については不明な点が多く残されていた。本研究では、この謎を明らかにするために取り組んだ種々の研究により以下の成果を得た。 オオツノヒラムシの共生細菌およびヒラムシ自身がTTXを生合成している可能性も視野に研究を進めているが、これらの仮説を支持するデータを集積することができた。すなわち、オオツノヒラムシにTTXを保有しない巻貝のみを餌として与えて成長させても、体重依存的にオオツノヒラムシのTTX量が増大することが確認された。また、オオツノヒラムシを抗生物質で処理して飼育すると、保有するTTX量が減少することから、共生細菌の関与が示唆されるとともに、オオツノヒラムシがTTX生産の場になっていることを示唆するデータが得られたと考えている。また、これらオオツノヒラムシの菌叢を明らかにするためのメタゲノム解析、オオツノヒラムシがTTXを保持・蓄積するのに必要なタンパク質および遺伝子群を明らかにするためのプロテオーム解析およびトランスクリプトーム解析を実施し、TTXの保有に関する遺伝子群の特定を目指して研究を進めた。 オオツノヒラムシがTTX生産の場になっていることが示唆されたが、このオオツノヒラムシの幼生が様々な生物のTTXによる毒化に関与していることを明らかにした。これまでに開発した抗TTX抗体を用いる免疫染色法を自然海域で集積した試料に対して適用し、プランクトン群衆から特異的にTTX保有微小生物を検出する方法を確立できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フグ類の毒化に関わるヒラムシ類の探索については、複数の海域でまとまった数のオオツノヒラムシを採取できたものの、新型コロナ感染症の影響により、当初予定していた試料採取計画を変更して実施しているため、新たな種の発見には至っていない。また、オオツノヒラムシの資源量の推定については、採取した個体情報を蓄積し、その採取海域および採取量(個体数、重量等)をもとに推定する準備を進めている。この情報を用いてフグ類を中心としたTTX保有生物の毒化機構の生態系モデリングを開始している。 また、今年度までに実施した研究により、TTXの生合成にオオツノヒラムシの共生細菌が関与していることを示唆するデータを得ることができ、現在、これに関わる共生細菌を明らかにするためにメタゲノム解析を実施して、関与する細菌群の絞り込みを実施している。引き続きツノヒラムシ属の有毒種および無毒種を対象とする比較ゲノム解析にも取り組んでおり、TTXの保有および蓄積に関与する遺伝子群の絞り込みを進めている。 以上、種々の研究項目について、最終計画年度に向けて準備が整いつつあり、本研究の主題である「真のフグ毒生産者」を突き止めることに近付きつつあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画3年目までの研究を実施し、オオツノヒラムシがTTXの生合成の場になっていることを明らかにすることができたと考えている。また、オオツノヒラムシを種々の海域で採取することができ、資源量を推定する準備がほぼ整ったことから、フグ類を中心としたフグ毒保有生物の毒化機構の生態系モデリングを様々な条件で推進する予定である。 これまでの研究で、高濃度のTTXを保有するヒラムシが、無吸盤亜目のツノヒラムシ属のヒラムシ類だけでなく、吸盤亜目にも存在することを明らかにしてきた。これは、TTX保有魚の毒化には、オオツノヒラムシを中心としたツノヒラムシ属のヒラムシの寄与が大きいものの、これ以外の分類群のヒラムシ類にもTTXの供給者が存在する可能性を示唆しており、調査対象とするヒラムシの分類群を拡大して研究を進めている。 オオツノヒラムシは、無毒の餌のみを与えて成長させても、保有するTTX量が上昇することが明らかとなったこと、抗生物質でオオツノヒラムシを処理すると保有するTTX量が減少することから、オオツノヒラムシの体内でのTTXの生合成には、ヒラムシの共生細菌の関与が大きいことが考えられる。現在進めているメタゲノム解析により共生細菌のうち、TTXの生合成に関与する細菌種の特定を進めるとともに、引き続きツノヒラムシ属のヒラムシ類の中で有毒種および無毒種を対象に比較ゲノム解析を実施してTTXの蓄積、場合によってはTTXの生合成系に関与する遺伝子群を見出す予定である。 これまでに開発した抗TTX抗体を用いた免疫染色法によりプランクトン群衆中からTTX保有生物を検出する手法を応用し、自然海域で集積した試料に対して当該手法を適用し、新たなTTX保有生物の検出を進めるとともに、TTX保有生物間のTTXの授受についても新たな関係を明らかにしていく予定である。
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Research Products
(20 results)