2019 Fiscal Year Annual Research Report
Integrative understanding of the development, evolution, disease and regeneration of the coronary circulatory system based on multicellular interaction
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19H01048
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 裕基 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20221947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 幸子 ヤマザキ動物看護大学, 動物看護学部, 教授 (40231451)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 心臓血管系 / 冠循環 / 発生 / 進化 / 病態 / 再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「神経堤細胞-マクロファージ-内皮細胞連環」を中心に、冠循環発生における多細胞系譜間相互作用の役割の解明、多細胞連携に基づいた脊椎動物における冠循環の進化に関する仮説の提示、発生学的知見に基づく新しい治療法創出基盤の形成を実現することである。本年度は、発生期心臓に流入する神経堤細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析、マウス胚と鳥類胚を用いた相補的な発生学的実験、魚類や両生類を含めた比較解剖学的研究、マウス成体を用いた冠動脈結紮による心筋梗塞モデル実験などを実施した。その結果、①心臓内神経堤細胞の分化多様性と平滑筋分化に至る細胞系譜の解明、②神経堤細胞とマクロファージ間の相互作用とその冠血管形成における役割の示唆、③マウスの胎生期心流出路に形成される毛細管網がIsl1+咽頭弓中胚葉に由来し冠動脈起始部形成に寄与することとセマフォリン-プレキシン系の関与の解明、④脊椎動物における冠血管形成の多様性と進化への示唆、⑤セマフォリン-プレキシンシグナル介入によって梗塞後の線維化や心機能低下を有意に軽減することの解明と心筋梗塞治療の新たな標的となる可能性の提示、などの成果を得た。以上の成果は、心臓血管系を発生・進化・病態の3つの視点から複合的に捉える新たな理解に貢献するとともに、心疾患の病態の理解と新規治療法開発にもつながる知見であり、さらに次年度以降の研究計画の基盤を充実させるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
冠循環系の発生起源の一つである神経堤細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析をマウス発生期の心臓流出路をサンプルとして実施し、冠動脈平滑筋への分化過程を含めて心臓内遊走後の分化多様性を明らかにした。この結果と免疫染色、鳥類胚における神経堤除去実験などから、神経堤細胞とマクロファージ間の相互作用とその冠血管形成における役割が示唆された。一方、マウスの胎生期心流出路に形成される毛細管網がIsl1を発現する咽頭弓中胚葉(二次心臓領域)に由来し、冠血管とリンパ管形成の共通の母体となって冠動脈起始部の形成に寄与すること、セマフォリン-プレキシンシグナルがその形成過程に関与することを明らかにした。また、この心流出路毛細管網を含む冠血管系の比較解剖学的研究から、冠動脈の進化を考える上での新たな手掛かりが得られた。さらに、セマフォリン-プレキシンシグナル介入によって梗塞後の線維化や心機能低下を有意に軽減することをマウス実験モデルによって証明し、このシグナル経路が心筋梗塞治療の新たな標的となる可能性を示した。以上の成果は、心臓血管系を発生・進化・病態の3つの視点から複合的に捉える新たな理解に貢献するとともに、心疾患の病態の理解と新規治療法開発にもつながる知見であり、さらに次年度以降の研究計画の基盤を充実させるものであり、期待通りに研究が進展したと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
①冠循環系の発生:(a)単一細胞RNA-seqによって推定された分化系譜を、系譜特異的Cre発現マウスで追跡して検証するとともに、先進ゲノム支援に採択された10X Visiumにより、各細胞系譜の組織内分布や細胞間相互作用を解析する。(b)マクロファージと神経堤細胞の分布相関や相互作用の可能性について、上記の解析とともにCsf1r-Creマウスを用いて単一細胞RNA-seqと10X Visiumデータとの対比を行い、心臓発生過程におけるマクロファージの分化系譜と細胞間連携の推移を解析する。(c)大動脈心外膜下脈管網内皮細胞の多様性とリンパ管及び血管への運命決定における細胞間相互作用を中心に、系譜特異的Cre発現マウスに用いた系譜解析によって検討する。 系譜間相互作用の解析:ニワトリ胚において頭部神経堤の除去によって生じる冠動脈入口部の過剰形成の機序を前年に続いて解析するとともに、前年度明らかになった骨軟骨前駆細胞様神経堤細胞からの冠動脈平滑筋や大動脈弁間質細胞への分化に関して、系譜特異的Cre発現マウスやニワトリ胚操作によってその誘導機構を中心に検討する。また、鶏卵尿漿膜上での器官培養系を用いて、冠動脈入口部の形成や神経堤細胞-マクロファージ-内皮細胞連環を解析できる系の確立を試みる。 ②冠循環系の進化:両生類と魚類の冠循環発生の解析をさらに進め、冠循環の進化に関する作業仮説を実験的に検証する。 ③冠循環系の病態と再生:細胞系譜特異的標識マウスにおいて左冠動脈結紮により梗塞病変を作成して経時変化を観察し、セマフォリン-プレキシンシグナル阻害がもたらす病態改善効果における各細胞系譜の関与を解析する。併せて、Csf1r-Creマウスを用いて標識した胎生期心臓マクロファージを採取して梗塞病変部位への移植を行い、病態形成への影響を解析する。
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Research Products
(23 results)