2019 Fiscal Year Annual Research Report
Childbirth versus infectious diseases: Molecular linkage between receptivity and insusceptibility
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19H01067
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Research Institution | National Center for Child Health and Development |
Principal Investigator |
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 室長 (60324844)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00451691)
山田 満稔 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383864)
浜谷 敏生 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60265882)
中村 浩幸 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 免疫アレルギー・感染研究部, 室長 (70256866)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロエクソソーム / エクソソーム / CD9 / テトラスパニン / 感染症 / 生殖器官 / 泌尿器官 / 神経細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の身体の内側は、粘膜上皮とよばれる湿潤な上皮におおわれ、ウイルスや細菌、微小粒子状物質(PM2.5)の体内への侵入から守られている。受精の研究から我々が発見したマイクロエクソソーム(microexosome)は、卵だけでなく、生殖器、泌尿器を含む様々な管腔構造の粘膜上皮、グリア細胞やニューロン、視細胞からも分泌される。マイクロエクソソームは、エクソソームと共通のタンパク質(テトラスパニンと呼ばれる膜タンパク質ファミリー、CD9やCD81が知られている)を含むものの、構造が全く異なる逆ミセル状の構造体である。テトラスパニンに関する従来の知見と、我々の研究から、マイクロエクソソームは、2つの役割(細胞膜の修復とウイルスの感染抑制)を担っていることが推測される。本研究ではマイクロエクソソームを手がかりに、一見、別々に見え、我々にとって身近な『子供の産まれやすさ』と『感染症への罹りにくさ』の2つの現象をつなぐ分子メカニズムの解明をめざす。本年度は、これまで取り組んできたマイクロエクソソームの再構成系の構築を分担研究者の河野と連携して取り組み、コレステロールとリン脂質の最適な比率を明らかにし、精子と卵の融合効率をこれまでの12%から40%程度まで格段に上昇させることに成功した。また、共同研究として進めてきたCD9の網膜再生における役割を明らかにし、原著論文として発表した。さらに、分担研究者の中村と連携して、感染症の防御におけるCD9およびマイクロエクソソームの役割を、サイトメガロウイルスをモデルにして解析した。用いた細胞は、マウス卵(野生型卵とCd9欠損卵)、ヒトアストロサイトーマ由来細胞(U-373MG)である。マウス卵およびU-373MG細胞を用いた検討から、CD9を含むマイクロエクソソームがサイトメガロウイルスの感染を抑制していることが推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分担研究者の河野と連携して、マイクロエクソソームの再構築系に改良を加えることで、より生体内で作られる近い構造体の作製を進めており、成果として、論文の投稿準備中である。さらに、マイクロエクソソームの主要な構成タンパク質の候補として補体関連因子C3が上がってきた。これまで報告してきたように、子宮内での細菌の増殖抑制には子宮内免疫、特にC3を中心にした補体系が機能する。マイクロエクソソームの子宮内での分泌量の変化はC3の存在量の変化と相関しており、C3がマイクロエクソソームの主要な構成タンパク質の一つである可能性が大いにある。さらに、分担研究者の中村とともにウイルス感染の抑制におけるマイクロエクソソームおよびCD9の役割について解析を行なっており、こちらも本年度中には論文を投稿する予定である。また、分担研究者の浜谷とは、産婦人科領域におけるマイクロエクソソームの役割を子宮内膜の周期的な再生を中心に解明するため、子宮内腔の洗浄液中に含まれるエクソソーム(不妊病態の進行)およびマイクロエクソソーム(正常状態の維持)の網羅的なタンパク質成分分析の準備として、検体の収集を行なった。特に、妊娠経験の有無で、時系列で、同一の女性からの検体の収集を行った。また、分担研究者の山田とは、子宮内腔に共生する細菌が、子宮内環境の整備(子宮内膜上皮の周期的な修復、有害な細菌の子宮内腔での増殖抑制)に不可欠であるとの作業仮説から、細菌の同定、生理活性物質の同定(D-アミノ酸を中心に)、マイクロエクソソームの子宮内における分泌量の増減との関連を、共生細菌叢の周期的なスクラップ&ビルドが重要であるとの観点から研究を進めている。日本分子生物学会年会においては、共生細菌の重要性をテーマにしたワークショップ(共生微生物による生命機能の制御:侵入者からの恩恵と消失による疾患)を山田とともにオーガナイズした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、生殖器および泌尿器のそれぞれの器官において研究を進展させることができた。共同研究として、眼科領域でも論文を発表することができた。また、マイクロエクソソームのウイルス感染抑制における役割について、サイトメガロウイルスをモデルとして独自の研究を進めることができた。一方、現在、コロナウイルスの感染拡大が世界で緊急に解決しないといけない問題である。そのため、神奈川県衛生研究所の部長である櫻木とともに、コロナウイルスの感染抑制におけるCD9およびマイクロエクソソームの役割についても研究を計画し、推進したいと考えている。従来から、抗CD9抗体は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)やネコ免疫不全ウイルス(FIV)の細胞への感染抑制、シンシチウムの形成を抑制する作用があることが知られている。加えて、CD9結合ペプチドのウイルス感染抑制への有用性の検討を共同研究によって進めている。また、CD9およびマイクロエクソソームの加齢にともなう発現量、分泌量の低下が推測されることから、我々が通常摂取する食材の成分として、CD9の発現増進、マイクロエクソソームの分泌促進に効果がある物質の探索を進めることで、生殖機能を維持しつつ、ウイルスの感染を抑制する、感染症分野と生殖領域にまたがるメカニズムの存在を分子レベルで明らかにしていきたい。
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Remarks |
国立成育医療研究センターは1月15日、精子の中にある「クエン酸合成酵素」が受精卵を活性化させる精子ファクターとなることをマウスによる研究で明らかにし、クエン酸合成酵素の働きが年齢とともに弱まりクエン酸を合成できなくなることで、男性不妊を発症する可能性があることがわかったと発表した。この研究成果は、米国の病理学会誌「Laboratory Investigation」に掲載された。
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Research Products
(22 results)