2020 Fiscal Year Annual Research Report
一次史料に基づく近世~近代日本の「遊廓社会」に関する総合的研究
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19H01311
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
佐賀 朝 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40319778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 洋子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00181686)
小野沢 あかね 立教大学, 文学部, 教授 (00276700)
人見 佐知子 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (00457029)
横山 百合子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (20458657)
吉田 伸之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (40092374)
金 富子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40558102)
吉田 ゆり子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50196888)
塚田 孝 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 客員教授 (60126125)
神田 由築 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60320925)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本史 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
『遊廓社会史入門(仮題)』の出版企画を視野に入れて、現地調査・一次史料の調査収集・研究会を行い、一次史料の分析を進め、遊廓社会の内部構造研究を深めることを目的とした。新型コロナ感染症の影響により、2020年度には活動が困難となり、2021、22年度に補助金の繰越を行い、2020年度の課題に取り組んだ。 史料調査・収集では、2021年度には、①中之島図書館所蔵「関西貸座敷連合会資料」(1919~1934年)の調査・撮影、②大阪公立大学文学研究科に寄贈される明治~昭和期の講談本・演芸関係資料「吉沢英明氏のコレクション」の調査に参加し、近世・深川の岡場所の一次史料、昭和期・仙台の貸座敷経営史料の収集を行った。2022年度には、③明治初期・大阪難波新地の貸座敷の経営史料(長谷川家文書173点)の整理・撮影、④明治初期の神奈川県布告・布達類(神奈川県立公文書館)、横浜遊廓関連史料(横浜開港資料館)の未調査分の収集・分析、⑤高知・愛媛県内の旧遊廓地の踏査と関連文献調査、玉水新地関係史料の収集(高知県立図書館オーテピア)、さらには⑥道後松ヶ枝町遊廓の一次史料の所在把握と、愛媛近代史文庫女性史サークルに保管されていた一次史料の複写物(全77点)の収集と目録作成も行った。ほかに⑦天理大学図書館所蔵の遊廓関係史料の複写も行った。 2020年度には国立歴史民俗博物館で企画展示「性差の日本史」が開催され、本科研研究分担者の横山百合子氏を中心に、小野沢あかね氏、人見佐知子氏も科研での成果を展示に反映させた。 遊廓社会研究会(zoom)は、a研究報告会(塚田孝「史料紹介 大坂「千日墓所一件」に見える心中」)、b成果報告会(横山百合子「歴博企画展示「性差の日本史」の成果と課題」)の2回を開催した。なお、c植民地遊廓科研(代表:金富子)主催の日韓オンライン公開シンポジウム(同時通訳付き)も共催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020~21年度は、新型コロナ感染症の拡大により、調査や対面での研究会などの活動が制約され、補助金を2021、22年度に繰り越し、研究活動を行った。2021~22年度に、20年度の課題としていた四国等の調査、一次史料の収集、2度の研究会を実施することができた。 ①中之島図書館所蔵「関西貸座敷連合会資料」の調査・撮影と③明治初期の大阪難波新地の貸座敷経営者関連史料(長谷川家文書)の整理・寄贈によって、大阪・南地の遊廓社会の内部分析の可能性が広がった。②吉沢コレクションの調査では、近世深川の岡場所の一次史料のほか、仙台貸座敷の昭和初期の遊興飲食料・課税領収書を調査でき、複数の一次史料を見出すことができた。④明治初期の神奈川県布告・布達類(神奈川県立公文書館)、横浜遊廓関連史料(横浜開港資料館)の収集により、横浜遊廓の稼業契約の分析・実態解明が進み、今後、論文発表が見込まれる。また④道後松ヶ枝町遊廓の経営史料(花山帳・紹介原簿・貸借計算簿など)の複写物は、妓楼と周旋業者との関係、娼妓の稼業実態の研究を進めるうえで、きわめて重要な史料である。史料目録も完成し、今後の研究成果が見込める。⑤高知県玉水新地史料の収集、⑦天理大学図書館所蔵の遊廓関係史料の複写もでき、奈良県および四国の近世~近代遊廓社会研究のための基本史料を確保できた。 2020年度の国立歴史民俗博物館企画展示「性差の日本史」は、本科研研究分担者が深く関わり、本科研の研究成果を、広く社会に共有する重要な機会となった。 研究会の開催はオンラインによるものであったが、a近世巨大都市大坂の周縁部の実態(千日墓所の心中)の解明、b「性差の日本史」展示による成果と課題、c植民地での日本式遊廓の導入過程という国際的な視座を得たことにより、共同研究の新たな方向性を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、遊廓社会史研究の成果を解説する『遊廓社会史入門(仮題)』の企画を目指すが、そのためにも、遊廓社会における一次史料の調査・収集に重点的に取り組む。研究分担者・協力者との情報共有を頻繁に行うことが重要となる。収集史料の分析には時間を要するが、研究会や個別の小研究会を積み重ねることでその進展を図りたい。 現地調査を行う過程で、1980年代以前に、地方史として取り組まれてきた女性史研究の中に、近年顧みられていない重要な研究成果があることが分かった。当時、発掘・使用された一次史料の行方の再調査も含めて、一次史料へのアプローチを強化すべきであり、近年蓄積されてきた研究視点から、分析し直すことも可能かつ必要である。具体的には、2022年度に収集した④道後松ヶ枝町遊廓史料(複写物)については、1980年代に詳細な分析を行った横川節子氏の論文がある。複写元となる原史料の旧保管場所は把握しているものの、アプローチが困難な状況にあり、原史料の現存も未確認であるが、今後も原史料の探索を続ける予定である。このような調査事例から、1980年代以前に編まれた関係文献や史料集を博捜することも、改めて重視すべき課題であることが判明した。 当科研関係者の所属機関附属図書館や近隣の博物館・資料館等における日常的な調査は、引き続き行っていきたい。研究会は、『遊廓社会史入門(仮)』の企画と関連した研究報告会を年2回以上開催する。収集した一次史料を用いた内部構造分析を進めていくが、特に、栃木県烏山遊廓の経営帳簿(遊客名簿、娼妓計算帳、遊興台帳)の複合分析を通じた妓楼経営の実態解明、横浜遊廓関係文書に含まれる明治初年~10年代の遊女・娼妓の契約書類の分析、宮城県若柳町遊廓の妓楼経営文書である阿部家文書の総合的な研究を重点的に進めていく予定である。
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Remarks |
科研課題による調査・研究を重ね、それらの成果を反映する。
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Research Products
(19 results)