2019 Fiscal Year Annual Research Report
狩猟技術の発達とホモ・サピエンスの人口増加の相関に関する考古・人類学的研究
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19H01346
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐野 勝宏 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (60587781)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホモ・サピエンス / 人口増加 / 狩猟 / 投射技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、旧人が絶滅したのに対し、新人ホモ・サピエンスだけが人口増を果たした要因が、投槍器や弓矢を使った新しい投射技術の開発による効率的な食料獲得の実現にあったと仮定し、この仮説を狩猟用石器の実験考古学的分析、対象獣の動物考古学分析、遺跡年代値の解析により、複合的に検証することを目的とする。 初年度は、イタリアの後期旧石器時代最初のホモ・サピエンス文化であるウルッツィアン(4万5000~4万2000年前)の遺跡を対象に調査した。ホモ・サピエンスが穂先として使った狩猟用石器を分析し、彼らの狩猟具の投射方法を復元した。狩猟具の投射方法は、石器についた衝撃痕跡をデジタルマイクロスコープを用いてマクロ・ミクロレベルで観察し、そのパターンを投射実験で見出された衝撃痕跡のパターンと比較検討することで同定した。また、シエナ大学の動物考古学を専門とする研究者と共同で動物遺存体の分析を進め、ウルッツィアン狩猟採集民の対象獣の構成を明らかにした。更に、ウルッツィアン遺跡の年代幅をより正確に復元するため、ウルッツィアン期の遺跡の年代測定を進めた。 上記の分析により、ヨーロッパにおける最初期のホモ・サピエンスが投槍器あるいは弓を使った狩猟技術を身につけていた可能性を定量的に検証することができた。また、最初期ホモ・サピエンスの対象獣の構成を詳細に解明することで、当該期における対象獣の多様性について検証することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イタリア・シエナ大学において、上記の分析を概ね予定通り進めることができた。また、分析成果の一部は、ハイ・インパクトジャーナル(Nature ecology & evolution)に投稿し掲載された。その成果は、国内外の複数のメディアで取り上げられた。また、今後の研究展開についてもイタリアの共同研究者と議論を進め、来年度以降分析する遺跡出土資料とその分析方法を確定することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ネアンデルタール人の遺跡とウルッツィアン以降のホモ・サピエンスの遺跡から出土した石器の分析を進める。これにより、両者の狩猟方法の違いについて調査研究する。また、出土動物相の分析も進め、両者の対象獣の違いについて調査する。最終的には、それらの結果を総合的に考察し、ホモ・サピエンスの人口増加の背景に、狩猟技術の革新があった可能性について検証する。
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