2019 Fiscal Year Annual Research Report
Prospection of the ground under the water of the moat surrounding ancient tumuli
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19H01360
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
高橋 克壽 花園大学, 文学部, 教授 (50226825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 周濠 / 音波探査 / 深浅測量 / 堆積層計測 / 西塚古墳 / 陸橋 |
Outline of Annual Research Achievements |
湛水状態にある古墳の周濠に対して、水面上からどのような手法でどれだけの水底の情報が得られるか、そしてその方法の有効性と問題点の抽出が2019年度の最大の課題であった。そこで、同年後半に水を抜くことが予定されていた奈良県奈良市ウワナベ古墳が予定通り調査対象となるよう、年度当初から、地元農家組合、奈良市、奈良県、宮内庁と連絡調整を重ね、8月のほぼ満水状態での探査を試みることができた。その内容は、水面下の浮泥(堆積した土)上面の状態を測定する深浅測量と、その浮泥層の厚みを図る堆積層計測との2つの内容からなり、音波を用いる方法で行った。その結果、水深の十分あるところでは、両調査とも正確なデータが得られたが、水深の浅いところでは、堆積層の真の厚みは測定できないことがわかった。 それでも、前方部側の周濠は底のレベルはほとんど一定であり、かつて発掘が部分的になされた後円部北東側の数値に照らせば、ウワナベ古墳の濠底は全周ほぼ一定であったことが予測できた。また、前方部西側の周堤拡張部では、下面に本来の堤の段差が残っていたことから、古墳の周堤の形状が従来の復元案とは異なること、また、西側濠底にはわずかな隆起があり、古墳付属施設の存在が期待されることなどもわかった。 このほか、福井県若狭町の史跡西塚古墳において、すでに水田として陸化してしまってほとんど形状がわからなくなった残存墳丘周りの濠部分について、レーダー探査を実施し、斜面地形に造営された大型前方後円墳の墳丘付帯施設の有無を探った。その結果、後円部西側に明らかに周濠を区切る渡土堤(陸橋)状の遺構が存在していることが確認できた。それ以外にも、渡土堤や造り出しではないかとみられる反応をとらえており、墳丘付属施設や周濠の水位調節などの解明にきわめて重要な古墳であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究初年次はウワナベ古墳において周濠調査を実施することが主目標であり、その成果を年度後半の排水状況と比べることにより、調査方法の有効性を検証することを目指していた。水抜き作業は諸事情により不十分な程度でとどまったため、全域にわたって対比することはできなかったが、干上がった北半部分では深浅測量の実効性は確かめられた。そして、水深の十分あった南半では、かつての部分的発掘成果に合致する探査の成果が得られた。 さらに、墳丘付属施設の解明という本研究の先の目標に対して、3年目に予定していた陸化した周濠をもつ古墳の探査を年度内に福井県西塚古墳で実施できたことは進捗状況が良好であることをまさに示すものである。 2基の対照的な立地と現状にある古墳の調査によって以下のことが強く望まれることがわかってきた。すなわち湛水状態にある古墳の探査を引き続き実施し、陸橋や島状施設、造り出しなど浮泥層に埋もれた遺構をみつけだす方法を編み出すことである。それには、同一水面の周濠をもつ古墳だけでなく、渡土堤などで段差のある濠をめぐらす古墳での調査も加えなければいけないが、現状では障害が多い。 そこで、西塚古墳のように斜面地に築かれた、陸化した古墳での探査成果を重ねることによって、古墳の墳丘周囲にどのくらいの量の水を貯めようとしていたのか、あるいは貯まらないようにしていたのかなどを明らかにできる可能性が出てきた。なお、西塚古墳は周囲に前後する時期の前方後円墳が連接しており、そうした古墳間での周濠の水の分配、排水などのシステムまでわかる可能性がある。こうしたことが初年度で得られたことが高評価の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度でその有効性が確認できた深浅測量と堆積層計測をかけあわせた周濠の底面に関する調査方法は、すでに述べたように水深環境に大きく作用される。そして、今日水を湛えた多くの大型前方後円墳は、実はそれほど深い水深をもつものはなく、さらに厚い浮泥を堆積させているのがほとんどである。本研究がより有効になるには、こうした多くの古墳に対して、ただしく濠底の形状をとらえることのできる方法を、測量技術チームと考案していく必要がある。水面からだけでなく、浮泥上面からなどさまざま検討を重ねたい。 いっぽう、当初の方法でもできるだけ効率よく安価で音波測量ができないか、第2、第3の実践を重ねながら探っていく。とくに、堆積層計測を実施できる範囲は深浅測量に比べて狭いため、どのような測線を設定すればよいかなど念入りに検討してから実施する必要があるだろう。 西塚古墳のような、斜面地に営まれた古墳ですでに陸化した古墳についても、積極的にピックアップし、レーダ探査その他の方法で、濠の水をどのように調整していたかのデータを集めることも進める。宮内庁が管理する陵墓などのこれまでの調査成果もあらためて検討し、墳丘と濠との一体的造営に古墳時代人がどれだけ意を注いでいたのか復元したい。
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Research Products
(1 results)