2021 Fiscal Year Annual Research Report
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19H01434
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
成瀬 幸典 東北大学, 法学研究科, 教授 (20241507)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石綿 はる美 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10547821)
蘆立 順美 東北大学, 法学研究科, 教授 (60282092)
中原 茂樹 関西学院大学, 司法研究科, 教授 (60292819)
津田 雅也 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80633643)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 営業秘密 / 秘密管理性 / 非公知性 / 情報の法的保護 / 情報の利活用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も、研究実施計画にしたがい「情報の保護」と「情報の利活用の促進」に関係する各法律に関する基礎理論や原理に関する検討を引き続き推進した。とりわけ、成瀬(刑法)、津田(刑事法)、蘆立(知的財産法)を中心に、営業秘密を含む経済的価値を有する情報の法的保護のあり方に関する検討を精力的に進めた。具体的には、昨年度の共同研究とそれを踏まえた日本刑法学会仙台部会での共同報告の成果を引き継ぎつつ、それを発展させる形で、経済的価値を有する秘密情報の保護のあり方について、以下のとおり、検討を行った。すなわち、営業秘密の保護が盛り込まれた平成2年の不正競争防止法改正から平成31年の「営業秘密管理指針」の一部改訂に至るまでの同法やそれに関連する指針等の改正経緯とその際の議論、不正競争防止法上の「限定提供データ」の保護のあり方に関する議論、刑法における秘密漏示罪の議論、改正刑法草案起草時における企業秘密の刑事法的保護のあり方に関する議論、アメリカの経済スパイ法における営業秘密概念に関する学説・判例等に関して調査を進めた。その結果、不正競争防止法上の営業秘密概念とその法的保護に関する学説・判例の関心の中心は「秘密管理性」要件にあるが、秘密の保護という観点からは「非公知性」要件も重視すべきであるとの認識など、これまでの通説的理解には問題(少なくとも、不明確な点)があるとの認識に到達した。 また、情報の活用という点に関して、石綿(民法)は、親が子どもの画像・動画といった情報を自由に公表することができるのかという問題について、親権者が親権行使の内容としてどのような行為ができるのかという視点から検討を加えた。 さらに、近年、重要性が高まっている大学等における研究データの管理・公開・利活用の促進と情報の法的保護の関係についての検討を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
営業秘密を含む経済的価値を有する情報の法的保護のあり方について、刑法・刑事法と不正競争防止法という2つの法領域を横断した形で、それぞれの分野の研究者によって、研究を推進し、その成果を研究会で報告・議論することを通じて、営業秘密侵害行為に関する通説的理解に対する疑問点を析出することに成功したこと、アメリカの経済スパイ法における営業秘密概念に関する学説・判例の調査から「非公知性」の重要性に関する示唆を得たこと、近年、重要性が高まっている大学等における研究データの管理・公開・利活用の促進と情報の法的保護の関係について、「オープン・アンド・クローズ戦略」を視野に入れつつ、検討を開始したことなど、順調に研究を進捗させることができた点が多くあった。特に、刑法・刑事法の研究者と知的財産法の研究者の共同研究により、一方の研究者のみでは容易には持つことができないと考えられる検討の視点を獲得し、個々の問題について多角的な検討を加えた結果、従来の通説的な理解に対する疑問に到達することができた点は成果と言える。 他方で、営業秘密を含む経済的価値を有する情報の法的保護のあり方は世界的な関心事であり、各国の法制度にどのような問題があり、それに対して、どのように対処しようとしているかを明らかにすることが重要であるところ、2021年度も、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大状況から、この点に関する海外の現地調査を行うことができなかったこと、情報の法的保護を考えるにあたり、個人情報の保護という視点が、しばしば現れてくるため、公法の視点からの研究が重要であるところ、この点については十分には推進できなかったことなど、いくつか不十分な検討にとどまったところがあった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、2021年度の調査・研究の成果を踏まえて、研究代表者・研究分担者各自が改めて設定した研究テーマについて、引き続き、関連する国内外の文献・裁判例・関連情報の分析・検討を進めたうえで、最終的な研究成果の取りまとめを行い、公表する。また、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延のため、これまで実施できていない海外の調査研究につき、可能であればアメリカを対象として実施する。 これまでは営業秘密など経済的価値を有する情報に焦点を絞って検討を進めてきたが、本年度は、検討対象を情報一般に拡大し、その法的保護のあり方について、刑事法、民事法、公法それぞれの角度から検討を加えることにより、情報の法的保護のあり方に関する理念を構築し、それを踏まえて、個別の問題に関する解釈論を提示する。とりわけ、これまで十分に展開することができなかった「特定の情報侵害行為が複数の法分野に関係しうる場合の法的処理のあり方」について、個人情報を素材として、公法学・刑事法学・民事法学という各法分野を横断し、横串を通した一般的法理論の構築を目指す。さらに、近年、重要性が高まっている大学等における研究データの管理・公開・利活用の促進と情報の法的保護の関係についても、各大学・研究機関等で制定が進められている「研究データポリシー」とその解説等を素材にして検討を行い、オープンサイエンスにおける適切なオープン・アンド・クローズ戦略のあり方や研究データの公開・利活用と先端的研究の推進に関わる法的問題を明らかにする。 以上の研究を推進するにあたり、年3回程度、研究代表者・研究分担者全員での打ち合わせ・研究会を実施し、そこで新たに得られた問題意識及び知見について、研究組織全体で共有を図るとともに、各分野の研究の進捗状況を相互に確認する。このことを通じて、本研究課題の調査・研究を組織として強く推進できるように努める。
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Research Products
(2 results)
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[Book] 家族と刑法2021
Author(s)
深町晋也,石綿はる美
Total Pages
284
Publisher
有斐閣
ISBN
9784641139510