2021 Fiscal Year Annual Research Report
A study on the penetration of neoliberal thought
Project/Area Number |
19H01472
|
Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
廣瀬 弘毅 福井県立大学, 経済学部, 教授 (20286157)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小峯 敦 龍谷大学, 経済学部, 教授 (00262387)
吉野 裕介 関西大学, 経済学部, 准教授 (00611302)
木村 泰知 小樽商科大学, 商学部, 教授 (50400073)
江頭 進 小樽商科大学, 商学部, 副学長 (80292077)
平方 裕久 金沢学院大学, 経済学部, 講師 (90553470)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 新自由主義 / 翻訳 / デジタル時代 / ハイエク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の大きな特徴は,新自由主義という現在にまで影響の残る経済政策思想が,どのように人びとに広がり,浸透してきたのかを,文献の内容を精査するという従来型の定性的な研究と,それぞれのキーワードがどのように使われていくのかをテキストマイニング分析を用いて実証的な定量分析を組み合わせている所にある。と同時に,経済思想や経済学史の分野でテキストマイニング分析を用いることに伴う様々な手法上の工夫やあるいは難点について析出することにある。 当該年度の成果について言えば,まず第一に新自由主義の概念の中核をなしたと言っても良いハイエクの思想を精査する部分で大きな進展が挙げられる。吉野の研究にあるように,1980年代に大きな影響を与えたハイエクらの議論が,現下の新しいデジタルの時代におけるプレイヤーの行動に対して何が言えるのかと言う視点での研究が進められた。さまざまな面でのデジタル化の推進は,ハイエクが想定していたような市場の秩序をもたらすかは,新たな課題として今後も検討を要することが明らかになった。 次にテキストマイニング分析について言えば,どうしても欧米の思想を日本に導入するというフィルターを考えた場合,翻訳というステップをどう考えるかと言う作業を避けられないことが明らかになった。そこで,古典的と言える経済学の文献であり,なおかつ複数の翻訳書が出版されたケインズ『一般理論』の訳語をテキストマイニング分析という研究成果を出した。翻訳語の扱いという論点は,極めて興味深い。と言うのも,学者が使う学術用語から,マスコミ等で用いられる専門外の人びとに訴えかける日常語をどう使い分けるかで,その概念の伝播に大きな影響を与えるからである。 これらの二つの方向性からの成果が今年度に達成できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度も,新型コロナの影響もあって対面での大型の研究会を開催することはできなかった。テキストマイニング分析の手法の改善,難点について意見を交換し合う,ワークショップ的な研究会を予定していたので,大変残念であった。これらは,遠隔ではなかなか突っ込んだ議論がしにくいために,今後コロナ禍が開けてから急速に進めていきたいと考えている。 ただし,今年度に関しても,ZOOM等を用いた遠隔研究を開催することで,むしろ他の分野の研究者と交流できるなどプラスの面も存在した。とりわけ,テキストマイニング分析を様々に応用することに対して熱心な,経済学史学会の東北部会などとの連携については,我々の研究チームにとっても大きな成果があった。従来は,地理的な条件からもなかなか望めないことであったが,遠隔開催をすることでむしろ逆に派参加者の地理的な分布は広がったためである。 他方,従来型の研究について言えば,我々の研究のテーマに関わる新自由主義に関する定性的な研究が,新たな時代に合わせた形で進んだ。すなわち,ハイエクの残したテキストをそのまま分析するのではなく,その概念を現代に活かすとどうなるかという現代的な意義を提供できる研究が進んだのである。 また,我々の研究はもともと狭く専門家の中だけで完結するようなものではなく,広く人びとに時代を画する概念の浸透について見ることに意義がある。それだけに,研究書だけでなく,教科書など初学者や大学を卒業した社会人に向けた情報発信についても,視野に入れてきた。この点で,この年度についても,いくつかの書籍を著すことが出来たことも大きな成果と考えている。 以上のことから,おおむね順調に研究プロジェクトが進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は,最終年度となる。これまで通り,定性的研究と研究と定量的研究およびその両者の有機的な協業を探っていく予定である。 特に,定量的分析においては,後に続く研究者に対して,テキストマイニング分析を用いる知見を積み重ねる予定である。それは必ずしも我々が用いた手法の単なる開示に留まらず,発見された障害についてもまとめていくことも含まれる。例えば,我々の研究プログラムの柱の一つは,多種多様なデータベースからテキストを析出していくものであるが,(1)研究の対象となるデータベースとりわけHP等で公開されているものについて,仕様が比較的頻繁に変更されるために,テキストマイニングのツール自体もそのたびに変更しなければならないなどの技術的な敷居の高さ,(2)次に,分析ツールにかけるテキストの下準備が予想外に手間がかかること,(3)商用データベースからのテキストは,コストの高さだけでなく,その利用にさまざまな法的な制限がかかっているために,研究の追試可能性に大きな支障があることである。 前の二つは技術的な問題であり,三つ目は制度的な問題である。これらについて,我々の得た経験を広く学界に提供できるようにしたい。可能であれば,規模は限られるかも知れないが,こういった課題に直面している他分野の研究者と意見交換できる可能性について探っていきたい。特に(1)はプログラミングの能力も求められるため,必然的に学際的な交流が必要となる。(2)についても,我々の「新自由主義の浸透」に研究の比重が大きい研究者だけではなく,他の分野の研究者との交流を図ることで,何らかの解決策についてのヒントが得られるようにしたい。他方,(3)については,現時点でいかんともしがたい。 最終的には,学会等で広く我々の研究成果を公開する機会を設ける予定である。
|