2019 Fiscal Year Annual Research Report
持続的食生活確立のための農産物・昆虫素材の高品質化および社会的普及
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19H01606
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松村 康生 京都大学, 農学研究科, 教授 (50181756)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香西 みどり お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10262354)
松宮 健太郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (60553013)
谷 史人 京都大学, 農学研究科, 教授 (70212040)
宮本 有香 神戸女子大学, 家政学部, 准教授 (70399252)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 農産物 / 昆虫 / 微粒子 / ナノファイバー / 粘性 / 調理加工 / 分散系食品 / 膨化食品 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は初年度に当たることから、全体の研究を進めるための基盤的情報の収集、すなわち、各種粉末原料素材の特性把握、粉末の分散系食品への応用可能性の検証、原料素材より抽出した生体高分子の理化学特性や腸管での動態把握、実際の食品製造に利用するための対象加工品の選定と粉末の添加手法の開発等を行った。それぞれの担当者が行った研究は、具体的には以下の通りである。 【松村・松宮】農産物(主にキノコ、大豆、果実)および昆虫(主にカイコの蛹)の微粉末素材の粒度分布、表面電位、微細構造等を検討した。また、乳化能、起泡性等を検討した。 【香西】様々な農産物の微粒子(平均粒径20~40μm)に水を加えて加熱した試料の粘性について検討した。その結果、玄米、白米、カボチャ、干し椎茸等について増粘効果が認められた。馬鈴薯澱粉を対照として調べた結果、濃度・温度変化、調味料の添加、冷凍処理等による影響が微粒子試料のほうが小さく、調理加工上、扱いやすいことが明らかになった。 【谷】増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)や昆虫・甲殻類由来キチンのナノファイバー(NF)が消化管内をどのように流動するかについて解明した。CMCのNFは3-ブロモプロピルアミンと反応させアミノ基を導入することで、キチンは一部の遊離アミノ基を介して蛍光標識化した。蛍光標識化NFをマウスに経口投与し消化管の画像解析をした結果、小腸上部では粘度に依存した一つの食塊として移動し、下部では粘度に依存しない複数の塊に分散した流動挙動を示した。また、CMCとキチンとでは上部における流動挙動に差が観察された。 【宮本】次年度において実際に昆虫粉末を添加する加工品の選定、および添加条件の基礎となるデータ収集を行った。クッキーやパンなど主に小麦粉焼成品を対象として、主原料である小麦粉を他の粉状原材料でどのような条件で置換してゆくか検討を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は「研究実績の概要」で記したように、3年間を通じて研究を進めるための基盤的情報の収集であったが、その目的はほぼ達成できたと考えている。 【松村・松宮】農産物や昆虫微粉末についての基本的特性(粒度分布、表面電位等)の把握および、それらの乳化性や起泡性の検討については順調に進めることができた。一方、昆虫からのタンパク質やナノファイバーの抽出については、その抽出条件の最適化を行っている段階である。 【香西】玄米、白米、トウモロコシ、カボチャ、レンコン、干し椎茸、ゴボウ、大豆等、幅広い素材の微粒子を用いて、その粘性挙動を詳細に解析し、各種調理操作による影響(温度変化、調味料添加、冷凍処理等)を解析している。この素材の中で増粘効果が特に認められるものと、認められないものを検討し、食品成分表に照らし合わせた結果、澱粉と食物繊維の合計量が40g以上のものが増粘効果を示すことが明らかになるなど、調理加工上、有用な発見もあった。 【谷】カルボキシメチルセルロースやキチンのナノファイバーの蛍光標識化に成功し、それをマウスに経口投与した際の腸管内での動態を把握する手法を確立した。その結果、消化管内での流動挙動と粘度との相関関係を明らかにすることができたほか、生理学的栄養効果への検討を一部実施するなど、予定通り、あるいはそれ以上の進展があった。 【宮本】昆虫粉末を小麦粉の焼成品に添加するための基盤情報の収集に努めた。昆虫素材の特性把握を松村・松宮のところで進めている段階であったので、実際の昆虫素材を使っての実験を行うには至らなかった。しかし、水分や膨化状態の異なる小麦粉食品、クッキー、パンなどにおいて、主原料である小麦粉を、どのように他の粉末素材で置換してゆくか、その手法をほぼ確立できたことから、2年目からの昆虫素材を使用した本実験には支障がない。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に確立した技術的基盤を基にして、それぞれの課題解決に向けて検討を進めて行く。一方、その一部の成果については、特に香西、宮本が中心となり、社会的普及を進めるための方法について検討を始める。 【松村・松宮】微粉末素材から調製した乳化物、泡沫、サスペンションの品質評価を、一部、香西とも連携しながら進めて行く。昆虫からタンパク質を抽出し、その溶解性、ゲル化性、乳化性などを検討する。 【香西】微細化農産食品の調理加工特性に関しては、市販されている微粒子食品を対象として、粘性などの物性について初年度の結果と比較検討を行う。また、微粒子の乳化性、起泡性、粘性が発現するメカニズムについて、松村・松宮と連携しながら解析を進める。さらには微細化原材料の調理加工への応用的な研究として、ゲル状食品に微粒子を一定量添加してゲル強度を高めるなど、食品の物性改良を通して利用性の拡大を試みる。 【谷】キチンナノファイバーを経口摂取した場合の生理学的な栄養効果については、単回投与での脂質吸収作用への影響の検討を年度末から開始しており、その結果を解析し、2020年度の長期投与における生理効果の実験につなげていく予定である。同時に、ナノファイバーの消化管内での分散状態が食物脂質の消化プロセスに及ぼす作用機構について解析する予定である。 【宮本】加工品は、クッキー、スポンジケーキ、パウンドケーキ、蒸しパン、発酵パンを選択する。これらは、ペースト、バッター、ドウと言うように、生地中の水分含量が異なり、膨化機構も、水蒸気圧、ベーキングパウダー、重曹、イースト発酵と異なっている。原材料の小麦粉を、油脂、たんぱく質、デンプン、糖質など含量の異なる粉として、きな粉、コーンスターチ、そば粉、豆粉、そして松村・松宮、香西によって検討されている農産物や昆虫の微粉末に置き換え、置換後の生地、膨化への影響を検討する。
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Research Products
(4 results)