2021 Fiscal Year Annual Research Report
「戦争体験」を活用した平和形成主体育成のための「方法としての平和教育」の構築
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19H01681
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
佐藤 宏之 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (50599339)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田口 紘子 日本体育大学, 児童スポーツ教育学部, 教授 (10551707)
新名 隆志 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (30336078)
杉原 薫 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (60610897)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 戦争体験 / 平和学習 / 平和教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、学習者が戦争体験者に自分を置き換え、体験者の能動的/受動的な営みに対する「共感共苦」や、もし自分が○○だったらどうするかという「反実 仮想」する活動を通して、「あの時代のどの段階であれば、別の、平和な時代を作る選択肢を人々は見いだせたのか」「別の選択肢を選びとる歴史的可能性はな かったのか」などの、判断する力を養い、その力を発揮するための具体的な回路を学ぶ教育方法を構築することを目的とする。 「戦争体験」は、身近な地域に戦争に関わった人がいることを知るうえで貴重な資料であるとともに、すでに過去の出来事であるため、その原因・過程・結果を俯瞰的にとらえることができる点に特徴がある。戦争体験者本人が、生の声で証言するということはここ数年内に確実に不可能となってしまうが、戦争体験者に直接話を聞くことができなくても、映像や録音を見聞きしたり、体験談集を読んだりする活動を通して、自分自身の体験と重なり合う部分を手がかりに他者の戦争体験に分け入ることは可能である。そのためにも、どのような過去を伝達し、かつ未来の記憶のかたちを選択する行為を解明し、死者たちを手段とせず、死者たちに対する負い目を教育の駆動力とせず、かつ死者たちに対して応答し責任を果たす平和教育を構想することが重要である。 これまでの平和教育は、戦争やその悲惨さの学習を戦争原因の科学的認識の学習や、平和創造の主体形成といった方向へ結びつける教育方法への関心が薄かったといえる。本研究で、平和教育を平和の尊さを理解し、平和を実現するものと考え、平和の実現のために参加する姿勢を育むための方法論を構築したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
地域素材(鹿児島県出水市の戦争体験)を基盤にした平和教育、すなわち、「過去の記憶」の認識・克服から平和構築を見通した教育プログラムの開発および教材の作成を行うために、以下の研究を実施した。 ・出水市教育委員会や出水市平和学習ガイドと定期的に打ち合わせを実施し、学校現場で実際に平和教育・学習の実践を行うための協議を行った。 ・ドイツにおいて、「過去の克服」や近隣諸国との「対話」を通し、個々の記憶、熱い思い、願いや希望を集団の記憶、社会の記憶、国家や人類全体の記憶へ 「記憶の文化」として育む過程における平和学習の役割について、2020年度に現地調査を行うべく準備をしていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により延期を余儀なくされていた。それがほぼ終息したことから2024年度に渡航し、現地調査および分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
日本・ドイツは、ともにファシズム陣営を構成し、第二次世界大戦で近隣諸国を侵略したため、歴史的には戦争加害国に位置づけられる。両国は、権力政治的、イデオロギー的な意味で戦争の性格に強い類似性を見せていた反面、戦争の終わり方の違い、敗北観の違いから異なる戦後の一歩を踏み出した。 日本は天皇の「聖断」により「終戦」を迎えたと、戦争をまるで天災(「被害」)であったかのようにとらえ、ドイツは徹底した空爆と地上戦の末、ナチ体制が完全に解体させられたことを「完敗」ととらえた。戦後、日本は、死者たちの遺言を引き継ぐことが、生き残った者の「責任」であり、生き残っている意味であると考え、その過去の「記憶」に取り組み、ドイツは、ナチスの再来を防ぐための民主主義の再教育を徹底し、排外主義、右傾化に抗する人権教育を行い、過去の「克服」に取り組んだ。 このように両国は、「過去」に対する異なる認識・取り組みを行ったが、それは戦後教育や戦争を教える平和教育の大きな原動力・駆動力となる一方で、現代において民族主義的な教育論へと回帰するための原動力・駆動力にもなったという点で共通する。その要因を明らかにするには、戦後教育の推進および民族主義的な教育論への回帰の原動力・駆動力となった「過去の受け止め方」(どのような過去を伝達し、未来の記憶の形づくってきたのか)を解明する必要があるとの新たな課題を発見することとなり、その研究を行う。
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Research Products
(1 results)