2021 Fiscal Year Annual Research Report
D-臨界的双有理幾何学の確立とDonaldson-Thomas不変量の圏論化
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19H01779
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸田 幸伸 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (20503882)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Donaldson-Thomas不変量 / 連接層の導来圏 / 行列因子化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はresolved conifoldの小特異点解消のPT圏の圏論的壁越え公式を証明し、長尾-中島による数値的なPT不変量の壁越え公式の圏化を与えた。Resolved conifoldの小特異点解消は非コンパクトな3次元カラビヤウ多様体であり、3次元カラビヤウ多様体のトイ模型として重要な役割を果たす空間である。この場合のPT不変量の研究で得られる結果はより一般の3次元カラビヤウ多様体の曲線の数え上げに対しても成り立つと期待され、よってこの場合にPT不変量の圏化を考察することによってより一般の場合の圏論的DT理論の性質を類推することができると期待される。Resolved conifodの場合、安定性条件のパラメーターが存在して、安定性の壁を超えるたびにPT不変量の生成関数が因数分解できることが長尾-中島により示されていた。今年度の研究で、PT圏の壁越えによって上述の因数分解を圏化するPT圏の準直交分解が存在することを示した。特にその系として、resoloved conifoldのPT圏がZ/2-次数の有限次元ベクトル空間の導来圏による準直交分解を持つことを示した。 上述のresolved conifoldの圏論的壁越えの際に最終的に鍵となったのはグラスマンフリップによる導来圏の準直交分解を圏論的Hall代数を用いて示すことにあった。その際、ヤング図形に関する組み合わせ論的な議論が必要となった。この議論を用いることで、Qingyuan Jiangによって提唱されていたある種の相対Quotスキームの連接層の導来圏の準直交分解を示すことができた。この準直交分解はBrill-Noether locusの特異点解消の導来圏などに応用される。このように、3次元カラビヤウ多様体の圏論的DT理論の研究が代数幾何における古典的なモジュライ空間の導来圏の研究に応用されるという、大変興味深い研究成果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで圏論的壁越え公式は「simple wall-crossing」の場合にしか示すことができなかったが、resolved conifoldの壁越えは「simple wall-crossing」の範疇を超えた複雑な壁越えであり、この場合に圏論的壁越え公式を満足のいく形で証明できたことは大きな進展であった。また、Jiangの予想の証明にもつながることは想定しておらず、思わぬ副産物であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度証明したresolved conifoldの圏論的壁越え公式に用いた手法は、より一般の場合にも適用できる可能性がある。数え上げ幾何学においてより興味深いと考えられる状況で、本年度の手法を適宜改良することで圏論的壁越え公式を証明していく計画である。
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