2020 Fiscal Year Annual Research Report
酸化還元状態を考慮した冷たい沈み込み帯での吸水・脱水過程と流体移動経路の解明
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19H01999
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| Research Institution | Kyoto University |
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Principal Investigator |
平島 崇男 京都大学, 理学研究科, 名誉教授 (90181156)
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| Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
苗村 康輔 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (50725299)
吉田 健太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 研究員 (80759910)
中村 高志 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (60538057)
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| Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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| Keywords | 深部流体 / アルカリ輝石 / ローソン石 / 青色片岩 / 黒瀬川帯 / 神居古潭帯 / N同位体 / CO2ガス |
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| Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、流体活動組織解析班と流体組成分析班を組織し、冷たい沈み込み帯での深部流体活動の実態や移動経路の推定を試みている。
流体活動組織解析班：九州黒瀬川帯箱石ユニットで、ローソン石青色片岩と互層するMn/Fe-rich変成チャート中の変成鉱物の詳細解析を行い、石英・アルバイトと共存するアルカリ輝石のヒスイ輝石成分は変成圧力のみではなく、共存するNaAlケイ酸塩鉱物の影響を受けることを見いだした。これは、当該の変成度の岩石ではヒスイ輝石圧力計が機能しないことを意味するもので、2021年9月の日本鉱物科学会でオンライン口頭発表した(薮田・平島）。北海道神居古潭変成帯幌加内地域で、CaCO3鉱物に富む鉱物脈中から見出だしたオンファス輝石の結晶構造を解析したところ、安定相とされるP2/n以外に、準安定相とされる複数のC格子構造やP格子構造とを見いだし、その意義について、日本鉱物科学会でオンライン口頭発表をした(大井ほか）。
流体包有物研究班：幌加内地域の石英脈中の流体包有物は非常に細粒で通常の加熱冷却法では気液の相同定が困難であるため、ラマン分光法による同定方法の実用化に着手した(吉田）また、新しいラボ環境で石英脈中の流体包有物の抽出作業に着手し、予備実験で得られた抽出液の微量成分を分析したところ、おおむね良好な結果が得られた。しかし、作業手順の課題も見つかったので次年度の改善事項とした（苗村・網田・大沢）。
昨年度までに確立したNH4イオンの窒素安定同位体比(δ15N)の測定手法を用いて、大分平野の非火山地域に分布する高塩分温泉のδ15Nを測定した結果、水素や酸素の同位体比異常から深部由来と推定できる温泉水中のδ15Nは天水由来の温泉に比べて有意に低い値を示した（中村・網田・大沢）。それを受けて、Nの起源鉱物に関する探索を開始した。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、コロナ感染症の拡大による度重なる非常事態の発令に加え、研究代表者(理学研究科・教授辞職→京大・理事就任）と分担者（京大・特手助教辞職→岩手大・准教授就任）の予期せぬ異動を伴ったため、当初の研究計画を大幅に見直すことになった。
特に、深部流体活動の痕跡である石英脈中の流体包有物の抽出作業は、当初は、分析作業のラボ環境が確立している京大の北部キャンパスと別府の京大熱学実験施設で実施予定であったが、主実験担当者が岩手大に異動したため、抽出経験のある網田（秋田大）の指導の下、岩手大で抽出、秋田大で組成分析を行う方式に変更した。しかし、コロナ感染症の影響で長期間の大学間移動が禁止されたため(概ね2020年度～2021年度前半まで)、網田の指導による予備抽出実験の開始は2021年度後半にずれ込んだ。岩手大での予備抽出実験にはNishimura et al(2008)で使用した試料の残りを用いたので、予備抽出液の組成を論文報告値と比較することで、抽出作業の良否を判断した。その結果、抽出手法の一部に課題を見つけたので、それを改善したのち、神居古潭帯の石英脈からの抽出作業に着手する予定である。
神居古潭帯の石英脈の採取地域を幌加内に選定した理由は、柴草英彦博士の一連の研究（1974, 1989）で、当該地域では、ローソン石が累進的に緑簾石に分解すると提唱されており、ローソン石が分解する際に放出されるH2O流体を石英脈中から抽出し、その微量成分組成を測定することであった。しかし、これまでの調査では、ローソン石は調査地域全域に広く分布し、ローソン石が分解した証拠を見出すことはできなかった。そのため、地域の変成分帯からやり直す必要が生じた。神居古潭変成帯の青色片岩の形成条件は高山（1988）以降、ACF-Fe3＋の仮想4成分系で取り扱う必要があり、その解析に時間を要している。
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| Strategy for Future Research Activity |
神居古潭変成帯幌加内地域で報告されている、CaAl含水ケイ酸塩鉱物の消長（柴草;1974）による変成分帯と変成鉱物のK-Ar年代値に基づいたユニット区分(榊原他、1994）の見直しを継続する。併せて、当該地域の泥質変成岩に炭質物ラマン温度計を適用し、当該地域の変成温度を推定する。
ローソン石青色片岩が吸水反応で形成された九州黒瀬川帯箱石ユニット(Sato et al., 2016)において、青色片岩と互層するMn/Fe-rich変成軟泥中のオホーツク石、Mn-rich-ローソン石、緑簾石の消長関係を用いて、青色片岩より高酸化状態の岩石系における脱水吸水過程を決定し、ローソン石青色片岩の形成に関与した水の起源について考察する。
現在の冷たい沈み込み帯の前弧域に噴出する深部由来流体、すなわち、非火山地域の温泉水の組成分析作業を継続するとともに、現在の冷たい沈み込み帯の直上の前孤域での地表温泉水の化学組成について、網羅的文献調査を継続する。また、新たに開発した、温泉水のN同位体の測定方法(中村ほか、2020）を非火山地域の温泉水に適用し、Nの起源や温泉水の循環経路について考察を行う。
神居古潭変成帯で採取した、深部流体活動の痕跡である鉱物脈中の微細な流体包有物に対してラマン分光法をもちいた同定方法を適用し、流体包有物の気相・液相の同定や深部流体が流体包有物として取り込まれた物理条件の推定を行う。さらに、石英脈からの流体包有物の抽出手法を改善した後、抽出液の主要・微量元素の組成分析を行う（秋田大学・外注）。
上記の研究成果が出揃い次第、対面あるいはオンラインで随時意見交換を行い、成果の公表方法を協議し、適切な学会で研究成果を発表するとともに、論文投稿の準備を行う。合わせて、年度末に適切な場所で研究集会を開催し、本科研費研究の成果の取りまとめを行う。
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