2019 Fiscal Year Annual Research Report
多周期積層による面内異方性制御した希土類系厚膜磁石の超小型デバイス応用
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19H02173
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
中野 正基 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20274623)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福永 博俊 長崎大学, 工学研究科, 理事 (10136533)
板倉 賢 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (20203078)
柳井 武志 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (30404239)
進士 忠彦 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60272720)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 厚膜磁石 / 小型デバイス / 多周期積層 / 面内異方性 / PLD |
Outline of Annual Research Achievements |
スパッタリング法を用い,シリコンやガラス等の非金属基板上に作製した0.02 mm厚程度のNd-Fe-B系厚膜磁石が,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用の材料として利用できる他の研究者の成果に刺激を受け,我々は,紫外線波長のパルスレーザをNd-Fe-B系ターゲット表面にDefocusさせ照射し,真空中で数ミクロン径の微粒子を発生させる手法を用いて,高速な成膜速度下で作製できることを利用し,Si基板上へのより厚手のNd-Fe-B系厚膜磁石の作製を進めてきた。Nd-Fe-B系厚膜磁石の線膨張係数と著しく異なる値を持つSi基板上に0.1 mm以上の膜厚を実現する際,それらの線膨張係数差を起源として成膜時もしくは熱処理時に発生する内部応力に伴う「磁石膜の剥離」が想定される。そこで,SiとNd2Fe14Bの間の線膨張係数を有するNdに着目し,熱処理による結晶化過程において,①粒界相,②三重点,③基板と磁石膜の界面にNdを析出させる方法により上記の内部応力の低減,ひいては剥離現象の回避に取り組み,膜全体の組成がNd2Fe14Bの化学量論組成に比べて著しく多い( Nd/(Nd+Fe) : 20 at.%以上)を含有させることで,Si基板(500 nm厚熱酸化膜付き)上への0.16 mmまでの厚膜化を実現している。 上記の実績を踏まえ,本研究では,「超小型デバイス」の具現化を目指し,Si基板上に作製するNd(もしくはPr)-Fe-B系厚膜磁石から発生する磁界の「大幅な増加」を目指し,磁石膜(磁性膜)と非磁性膜との積層構造を100周期以上で堆積させた材料の創製法を確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度は (1)磁性膜として簡易的な組成であるFeやFe-Co,非磁性膜としてガラスを利用し,その積層構造を構築する条件を探索した。その際,TEMによる微細構造観察を利用した。 (2)磁性膜にNd-Fe-BやPr-Fe-B系厚膜磁石を用い,その厚膜磁石の磁気特性向上を評価すると共に,(3)ガラス下地層を用いた単層のNd(or Pr)-Fe-B系厚膜磁石を作製し,マイクロ着磁の検討をした。特に,(2),(3)に関しては,IF付き学術論文に投稿し,最近,掲載が認められた。個々の具体的成果を以下に示す。 (1)「高飽和磁気分極を有するFe65Co35板」と「高抵抗のガラス」を複合したターゲットを利用する事により,Fe-Co/ガラス積層膜を厚膜化する手法に取り組んだ。ガラス被膜率20 %で作製した試料のTEMによる微細構造の観察結果より,①約2 ミクロン径の大きなガラス粒子を中心とした一部Fe-Co結晶相が形成された後,②Si-O(約10 nm厚)とFe-Co(約20 nm厚)の約140層の積層構造(厚み:2 ミクロン程度)が得られ,その後,③Fe-Co粒子のみでなる合計3つの構造が観察された。また,断面方向での2ミクロン厚の積層構造に由来する1 GHz以上での実効透磁率が確認された。その一方で,試料の上部で,ガラスはほとんど蒸着されておらず,Fe-Co相の柱上構造のみが形成されており,今後の課題となった。 (2)ガラス下地層付きSi基板上のNd(or Pr)-Fe-系厚膜磁石の磁気特性を比較した結果,NdとPrの線膨張係数の観点より,同じ膜厚を得る際に,Pr-Fe-B系磁石膜がより少ない希土類含有量で試料を作製でき,その(BH)maxが優れる事を明らかにした。 (3)ガラス下地層付きSi基板上に単層のNd-Fe-B系厚膜磁石を作製し,Si基板上における世界で初めてのマイクロ着磁の実現を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,Fe-Co磁性膜とガラス(非磁性膜)を利用し積層構造を構築する条件において,前年度の「試料上部における,ガラスがほぼ蒸着されず,Fe-Co相の柱上構造のみが形成される現象」を克服するために,ガラスの板厚の増加が容易なターゲット構造,すなわちガラスの上にFe-Coシートを被せる複合ターゲット(従来のターゲットとは逆の構造)を用いた実験を進め,DF rate(Defocus Rate)やレーザパワー等のパラメータ等を制御し,ガラスの貫通を抑制する条件の探索を進めると共に,TEMでの微細構造観察を同時に行い,磁性膜(Fe-Co膜)とガラス膜の積層構造構築の最適条件を確立する。得られた試料に対し,前年度度同様,GHz帯域での透磁率の測定も利用し,マルチスケールでの積層構造の評価も検討する。将来的に,磁性膜としてNd-Fe-B(Pr-Fe-B)層を用いた際には,熱処理による結晶化(2-14-1相の形成)が必要とされるため,Fe-Co/ガラスによる積層構造の破壊抑制が生じない熱処理条件,具体的には瞬時熱処理の最適条件を先行して探索する。加えて,現状の非磁性層として利用しているガラス層に替わり,アルミナなどの他の非磁性酸化物の利用も視野に入れ検討する。その際,非磁性ターゲットをレーザ照射する初期段階において,数ミクロン径の粒子の発生を抑制する条件探索に的を絞り実験を進める。 上記の実験と並列に,計算機解析を利用した磁気特性に及ぼす積層構造の最適条件,具体的には,「Nd-Fe-B(Pr-Fe-B)層の結晶粒径」や「磁性層と非磁性層の膜厚比」などの条件も検討する。更に,ガラス下地層を用いたSi基板上の単層のNd(or Pr)-Fe-B系厚膜磁石をマイクロ着磁する際,マイクロ着磁に利用するレーザパワーとガラス下地層の厚みの関係などをパラメータとして詳細に検討し,前年度確認したマイクロ着磁を利用した試料から発生する磁界の増加を試みる。
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Research Products
(15 results)