2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of optical functions in transition-metal mixed-anion oxide thin films
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19H02594
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近松 彰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40528048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和達 大樹 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (00579972)
酒井 志朗 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (80506733)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 複合アニオン / 薄膜新材料 / 光機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属酸化物の多くは強相関電子系と呼ばれる物質群であり、強いクーロン斥力相互作用から生じる電子相関の効果により特異な物性を示す。強相関遷移金属酸化物の中において、光照射により電気伝導性や磁性が変化する現象が観測されている。例えば、バナジウム系(VO2等)の光誘起金属―絶縁体転移や、マンガン系(La1-xCaxMnO3等)の光誘起磁化などが知られている。光で物性を操作する光科学の研究は、電子・スピン物性の理解、非平衡物質相の探索、および光による物性の超高速スイッチング等の応用に貢献している。 近年、遷移金属酸化物の酸素サイトの一部を水素や窒素、フッ素などの異種アニオンをドープした複合アニオン酸化物が、新しい無機化合物群として注目されている。遷移金属酸化物への光照射の研究で豊かな物性が開拓されてきたことを考えると、複合アニオン酸化物でもさらなる新しい光機能の発現は疑いない。本研究では、アニオンドープ酸化物エピタキシー法の新合成ルートを開拓し、遷移金属複合アニオン酸化物薄膜・ヘテロ構造の新しい光機能の創出を目指すとともに、複合アニオン酸化物薄膜の光機能発現機構を電子状態の観点から解明することを目的とする。 令和2年度は、①新しいマンガン系酸フッ化物薄膜の作製と新電子相の発現、②新しい層状ルテニウム酸フッ化物薄膜の作製と電子物性解明、③電子分光測定による遷移金属酸化物薄膜の電子状態解明の研究を行った。コロナ禍の影響で研究室閉鎖や放射光測定など予定していた実験ができない期間もあったが、おおむね順調に進めることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①の新しいマンガン系酸フッ化物薄膜の作製と新電子相の発現では、マンガン酸化物Pr0.6Sr0.4MnO3薄膜へのフッ素ドープに成功し、フッ化により電子ドープされることを見出した。さらに、フッ化条件を変えることでドープするフッ素量を変化させ、マンガン酸化物への電子ドープ量をコントロールできることを見出した。 ②の新しい層状ルテニウム酸フッ化物薄膜の作製では、Ca2RuO4薄膜にトポタクティックフッ化反応を施すことで、新規層状ルテニウム酸フッ化物であるCa2RuO2.5F2単結晶薄膜が得ることに成功した。X線光電子分光測定から、作製した薄膜が珍しい3価のRuを持つことを明らかにし、化学組成分析から得られた組成と一致する結果を得た。また、X線回折と透過電子顕微鏡測定により、Ca2RuO2.5F2薄膜の結晶構造および結晶中のCa, Ru, 層間のFの原子位置を明らかにした。さらに、Ca2RuO2.5F2薄膜の電気伝導メカニズムが、2次元可変領域ホッピング伝導に従うことを明らかにした。 ③電子分光測定による遷移金属酸化物薄膜の電子状態解明の研究では、AサイトオーダーダブルペロブスカイトGdBaCo2O5.5薄膜について、時間分解X線磁気円二色性反射率と共鳴磁気X線回折により、光誘起強磁性―反強磁性転移を示すことを明らかにした。さらに、この強磁性―反強磁性転移が、Coのサイトの違いによる光照射によるスピン状態変化に由来すると結論付けた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、①ビスマス鉄酸化物薄膜のフッ化、②新規ルテニウム酸フッ化物の合成と光照射実験、③複合アニオン酸化物薄膜の特異な光機能物性の探索、④電子分光および⑤理論計算による電子状態解明の観点から進める。 ①に関して、マルチフェロイクス材料であるビスマス鉄酸化物にフッ素ドープを施すことで、新しい電子相を発現させる。 ②に関して、昨年度の研究において、固相エピタキシー法とトポタクティック合成法を組み合わせることで、新規ルテニウム酸フッ化物Ca2RuO2.5F2薄膜の合成に成功した。今年度は合成した薄膜の電子物性と電子状態を詳細に調べた後、光照射実験へと展開する。 ③は、すでに作製に成功している様々な遷移金属酸水素化物・酸窒化物・酸フッ化物薄膜について、光誘起による絶縁体-金属転移、磁化の探索を行う。また、発現した光物性は、アニオン量や基板応力を変えることによって変化させる。 ④は、電子分光実験により①や②で合成した薄膜を含む遷移金属複合アニオン酸化物の光誘起に伴う電子状態を解明する。元素の寄与を直接観測できる共鳴光電子分光や磁気特性も観測できるX線磁気円二色性測定だけでなく、光誘起による伝導性・磁性のピコ秒・フェムト秒スケールでの過渡的な状態を観測する時間分解型X線測定を行う。これらの測定により、光機能のメカニズムの解明と最適な複合アニオン酸化物の提案を行う。 ⑤は、密度汎関数法に基づく第一原理計算と動的平均場理論の複合手法を用いて、アニオンの局所構造と物性の関連性を考察する。これにより計算された電子励起スペクトルを上述の分光実験の結果と比較することで、電子状態を明らかにする。さらに、非平衡状態へ拡張された動的平均場理論を用いた光励起ダイナミクスの計算によって、光機能のメカニズムを解明する。
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Research Products
(11 results)