2019 Fiscal Year Annual Research Report
3次元軌道・スピン分解STMによる強相関トポロジカル絶縁体の原子分解能観察
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19H02595
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
宮町 俊生 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (10437361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / トポロジカル絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究の目的である「YbB12のトポロジカル表面状態の起源や発現機構の原子スケールでの解明」を達成するための事前準備としてまず、大面積で均一なYbB12表面の作製法を確立に取り組んだ。
YbB12の表面状態を本質的に理解するためには大面積で均一なYbB12表面作製法の確立が必須である。これまでに研究代表者は、別のTKI候補物質であり、同様の表面の不均一性の問題を抱えていたSmB6の大面積化・均一化に世界で初めて成功しており(Sci.Rep.2017)、本研究でも表面作製条件の精密制御により大面積で均一なYbB12単結晶(001)面の作製に取り組む。先行研究では約1400℃で数秒試料を加熱してYbB12(001)表面を作製していたが、この試料作製法ではYb原子の脱離によって不均一表面が現れ、それに伴い表面電子の空間的乱れが存在することが原子分解能STM構造観察および分光測定により明らかになった。そこで、本研究では加熱温度を下げてYb原子の脱離を抑制し、さらに加熱時間を延ばして表面の原子拡散を十分に促してYbB12(001)表面の大面積化・均一化を試みた。試料加熱温度および加熱時間を変化させながらSTM構造観察を行った結果、加熱温度約1200℃で1時間加熱することにより原子レベルで均一なc(2×2)再配列構造を持つYbB12(001)表面が数百nm程度の領域で観測された。STM分光測定でもスペクトル形状は測定場所に依らずほぼ同一であったことからYbB12(001)単一表面の作製に成功したと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画の中心であるYbB12表面作製法の確立について取り組み、YbB12(001)表面の構造と電子状態の加熱温度・加熱時間依存性を調べた。試料加熱によるYbB12(001)表面のYb原子の脱離を抑制しながら、加熱時間を延ばして表面の原子拡散を十分に促すことがYbB12(001)単一表面を作製する上で重要であることが明らかになった。本研究により、マクロ構造評価手法では判断できない原子スケールでの表面不均一性の問題をSTMによる原子スケールその場観察により解決できることが示された。これらの研究成果については国内学会で発表を行い、学術雑誌に論文投稿準備中である。さらに、本研究で確立した単一表面作製法を他のバルク試料にも適用することに成功し、関連研究についても進展させることができた。 並行して極低温・強磁場中スピン偏極STM装置[電気通信大学、カールスルーエ工科大学(ドイツ)、復旦大学(中国)の3カ国共同プロジェクト]の建設・整備を進めた。今年度は装置のメイン部である(1) JTクライオスタットの製作・冷却テスト、(2) STM本体の製作・動作確認を行った。今年度は真空排気系(ターボ分子ポンプ、イオンポンプ等)や測定コントローラーを導入するなど立ち上げ作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はSTMによる原子スケール構造観察によりYbB12(001)単一表面の作製法を確立することができた。2020年度は研究計画の中心の一つである軌道分解STM測定を行う。軌道分解STM測定に関しては研究代表者らが実験的に世界で初めて実証したSTMの軌道選択性 (PRL2016) を利用する。STM探針と試料表面間の距離を精密に制御して、適切な実験手法の欠如からこれまで調べられてこなかったYbB12表面状態への各電子軌道(s, p, f 軌道)の寄与や役割を軌道分解して明らかにする。また、面方位制御によって表面原子を異方的に配置し[例:(110)面]、空間的に構造変調させたYbB12の表面状態と近藤状態(強い電子相関)をSTM分光測定により原子スケールで同時検出し、両者の相関を明らかにすることによって面内方向の電子軌道分布についても明らかにする。 並行してSTMを使ったトポロジカル絶縁体の研究に主に用いられている準粒子干渉計測にSTMの軌道選択性を組み合わせ、YbB12表面状態のバンド分散を電子軌道(s, p, f 軌道)ごとに分解して観察する。角度分解光電子光測定が苦手としていた非占有準位のバンド分散の観察のみならず、強相関トポロジカル絶縁体の表面状態を解明するための新しい研究手法を提案できると考えている。さらに、STM観察から得られた表面構造の情報を組み込んだ高精度な理論計算との比較から、バンド分散のより深い理解を得ることが可能である。
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[Presentation] SiC(0001)上のツイストグラフェンの電子状態について II2020
Author(s)
飯盛拓嗣, 今村均, 魚谷亮介, 宮町俊生, 服部琢磨, 中辻寛, 間瀬一彦, 梶原隆司, Visikovskiy Anton, 田中悟, 小森文夫
Organizer
日本物理学会第75回年次大会
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