2020 Fiscal Year Annual Research Report
3次元軌道・スピン分解STMによる強相関トポロジカル絶縁体の原子分解能観察
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19H02595
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮町 俊生 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (10437361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / トポロジカル絶縁体 / 近藤効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてトポロジカル近藤絶縁体(TKI)候補物質YbB12の表面電子状態を電子軌道・スピンごとに3次元に分解して原子スケールで評価し、スピン偏極したトポロジカル表面状態の起源を電子相関の観点から解明することを目的とする。
本年度は本研究の目的である「YbB12のトポロジカル表面状態の起源や発現機構の原子スケールでの解明」を達成するため、YbB12表面の電子軌道分解STM測定を実施した。また、並行してトポロジカル絶縁体のSTM研究で主に用いられている準粒子干渉計測を行い、YbB12表面状態のバンド分散の観測に取り組んだ。
電子軌道分解STM測定ではSTM形状像や分光スペクトルがSTM探針-試料表面間の距離に依存して変化するSTMの軌道選択性を利用する。まず、STM探針位置をYbB12(001)表面から遠ざけた状態でs,p軌道に敏感なSTM分光測定を極低温環境下にて行った。結果、強い電子相関(近藤効果)に起因してフェルミ準位近傍にバンドギャップが観測され、バンドギャップ中に金属的な表面状態が新たに観測された。さらに、STM探針位置の精密制御をしてYbB12(001)表面に近づけてd, f軌道へのトンネル過程が優勢な状態でSTM分光測定を行い、バンドギャップの形状や金属的な表面状態のエネルギー位置が変化することが明らかになった。上記の結果は、YbB12のs,p軌道を強く反映したトンネル分光スペクトルが、STM探針位置が表面に近づくにつれてd, f軌道に敏感なトンネル分光スペクトルに変化したことを示唆している。また、YbB12(001)表面の準粒子干渉計測も行い、バンドギャップ中に観測された金属表面状態のバンド分散観測に取り組んだが、測定時にSTM探針を安定的に制御することができず、明瞭なバンド分散は観測されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していたYbB12表面の電子軌道分解STM測定に取り組み、フェルミ準位近傍に現れたYbB12(001)表面のバンドギャップと金属状態のSTM探針-試料表面距離依存性を原子スケールで調べた。STM探針-試料表面距離のサブオングストロームスケールでの精密制御によってバンドギャップ形状と金属表面状態のエネルギー位置の変化を検出することに成功した。得られた結果からYbB12のトポロジカル表面状態へのs,p軌道およびd, f軌道の寄与を分離して議論することが可能になると考えられる。これらの研究成果については国内学会で発表を行い、学術雑誌に論文投稿準備中である。さらに、本研究でSTM探針-試料表面距離の精密制御法を確立したことによって関連研究についても進展させることができ、論文発表を行った。
並行して極低温・強磁場中スピン偏極STM装置[名古屋大学、カールスルーエ工科大学(ドイツ)、復旦大学(中国)の3カ国共同プロジェクト]の建設・整備を進めた。今年度はより高精度なSTM測定を実施するのに必要な高剛性架台およびアクティブ除振システムの設計、性能シミュレーションを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は電子軌道分解STM測定により、電子軌道別(s,p,d,f軌道)にYbB12(001)表面の電子状態を議論することができた。2021年度は今年度に引き続き準粒子干渉計測を行い、YbB12(001)表面のバンド分散を明らかにする。さらに、スピン偏極STM観察に取り組み、電子軌道だけでなくスピンについても分解して表面状態を調べることにより、YbB12のトポロジカル近藤絶縁体(TKI)としての物性を包括的・総合的に理解する。
準粒子干渉計測については、測定時におけるSTM探針の安定性の問題が明らかになった。対応策として、今年度、設計・性能シミュレーションを行った高剛性架台およびアクティブ除振システムを導入し、より低ノイズ環境での高精度測定に取り組む。トポロジカル絶縁体のバンド分散観測に用いられてきた従来手法である角度分解光電子光測定が苦手としている非占有状態のバンド分散観測に実空間・原子スケールでの分光測定を組み合わせることにより、TKIの金属表面状態の発現機構を解明する。スピン偏極STM観察についてはSTM探針を非磁性W探針から磁性探針(現所属ですでに作製法を確立している強磁性Fe探針を使用予定)に変えて電子軌道分解STM測定と準粒子干渉計測を行い、電子軌道だけでなくスピンも分解してYbB12の表面状態の起源やバンド分散を包括的・総合的に明らかにする。本研究の事前準備として、スピン分解したSTMデータを得るのに必要なスピン偏極準位のエネルギー位置がわかっている試料のスピン偏極STM観察を行い、使用するSTM装置の性能をチェックする。
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[Journal Article] Twisted bilayer graphene fabricated by direct bonding in a high vacuum2020
Author(s)
Hitoshi Imamura, Anton Visikovskiy, Ryosuke Uotani, Takashi Kajiwara, Hiroshi Ando, Takushi Iimori, Kota Iwata, Toshio Miyamachi, Kan Nakatsuji, Kazuhiko Mase, Tetsuroh Shirasawa, Fumio Komori, Satoru Tanaka
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Journal Title
Applied Physics Express
Volume: 13
Pages: 075004
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] SiC(0001)上のツイストグラフェンの電子状態のツイスト角度依存性2020
Author(s)
飯盛拓嗣, 今村均, 魚谷亮介, 宮町俊生, 服部琢磨, 中辻寛, 北村未歩, 堀場弘司, 間瀬一彦, 梶原隆司, Visikovskiy Anton, 田中悟, 小森文夫
Organizer
日本物理学会2020年秋季大会