2019 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on the mechanisms of surface melting of ice polycrystals
Project/Area Number |
19H02611
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 氷 / 多結晶 / 表面融解 / 高分解光学顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
多結晶氷は単結晶氷とは異なり,粒界や高指数面から成る粒表面を持つ.これらが氷結晶の表面融解に及ぼす影響について調べ,2019年(令和元年)度には主に下記の2つの成果を得た. 1.粒界での液相の生成:粒界中での擬似液体層の生成をモニターするために,粒径650 nmのポリスチレン粒子をケンダクした超純水を液体窒素温度に冷却したガラス板上に滴下し,多結晶氷薄膜(厚み70 ミクロンm)を作製した.そして,様々な温度-水蒸気圧下で,レーザー共焦点微分干渉顕微鏡およびリニーク型干渉計(新規開発)を用いてその場観察した.その結果,粒界上では温度-3~-2°Cで,昇温とともに液相が生成し,降温とともに液相が消滅することを見出した.また,同じ温度領域で,水蒸気圧を変化させて観察したところ,水蒸気が過飽和・平衡・未飽和であるに関わらず,粒界上で液相が生成・消滅することがわかった.この結果は,氷単結晶で得られた結果とは大きく異なる.氷単結晶の場合には,気固平衡条件近傍では,準安定相である擬似液体層は生成しなかった.多結晶氷での結果は,粒界が著しく不安定であり,温度-3~-2°C以上になると粒界が融解するものと考えられる.すなわち,粒界で生成する液相は,熱力学的に安定であると考えられる. 2.結晶粒表面での液相の生成:さらに約-0.8°Cよりも高温になると,昇温に伴い結晶粒の表面に液滴が核形成・成長するが,数分~10分程度で生成した水滴は自発的に消滅することがわかった.この結果も,単結晶上での結果とは大きく異なる.氷単結晶上では,特定の過飽和/未飽和な温度-水蒸気圧領域では,擬似液体層は動力学的に安定に存在できた.多結晶の結晶粒表面で液相が生成・消滅する温度条件では,結晶粒表面で液滴が生成しても,より安定な粒界中の液相に,水蒸気を介して相転移するものと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を開始する以前の2018年度の段階では,マイケルソン型干渉計(倍率2.5倍,焦点深度170 ミクロンm)を用いて多結晶氷表面をその場観察し,多結晶氷試料上で暗いコントラストで観察される物体が擬似液体層であると結論付けていた.しかし,その後さらに詳細な観察を行うべく,リニーク型干渉計(倍率20倍,焦点深度7.5 ミクロンm)を新たに作製してその場観察実験を行ったところ,暗いコントラストで観察される物体は,擬似液体層ではなく,裸の結晶粒表面であることがわかった.そのため,研究計画調書で説明した,「-16°Cでも多結晶上では表面融解が観察される」とする解釈は誤りであることがわかった.マイケルソン型干渉計の焦点深度が170 ミクロンmと大変大きいため,氷結晶内部の光学的情報を,氷結晶表面での情報と解釈し誤ったことが原因である. そのため,研究計画調書に記入した,1.多結晶氷上での擬似液体層の熱力学的安定性の測定,に関しては全く新たにその場観察実験を行うことになった.特に,粒界中での液相の生成をモニターするべく,ポリスチレン粒子をケンダクした超純水を用いて多結晶薄膜試料を作製することで,研究実積で説明した,1.粒界での液相の生成,に関してあらかじめ予期していなかった新たな成果を得ることが出来た. 研究は,上記に説明した点以外は概ね研究計画調書どおりに順調に進行しているので問題は無い.特に,2019年度には,多結晶氷試料の光学主軸分布を計測するためのその場観察システムを順調に立ち上げることにも成功している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにした2点に加えて,今後さらに下記の3点を明らかにすることで,多結晶氷上での表面融解の機構を解明する.3~4)の具体的計画を以下に示す. 3)融点直下での粒界の急速な融解現象:研究実積では割愛したが,我々は,-0.5°C以上の融点直下の温度では,粒界より多量の液相が生成することを既に見出している.過飽和水蒸気下で,多結晶氷薄膜の温度を-0.8°Cから-0.3°Cに昇温すると,100s程度で大量の液相が粒界より生成し,粒界より生成した液相は数分以内に多結晶試料全体を覆いつくす.しかし,水蒸気圧を未飽和に転ずると,液相がやがて徐々に減少することより,本現象が,融点(0°C)でのバルクな融解ではないことを既に確認している.これまでは全ての観察を「反射型」の光学系で行ってきたが,「透過型」の観察が行える光学系および観察チャンバーを新たに作製し,生成する液相とともに粒界自身の形状変化等を詳細に観察することで,この現象の機構を解明する. 4) 粒界性格の寄与の計測:近年,東北大学の塚本勝男元教授と株式会社フォトロンが,画素毎に方位の異なるフォトニック結晶型マイクロ偏光素子アレイを実装したイメージセンサを開発し,これまで偏光計測に不可欠であった偏光板の回転動作を行わずに偏光計測を行える様になった.この技術を利用して,氷多結晶試料の粒界の性質を評価することで,粒界性格と表面融解の相関を明らかにすることができると予想している.令和元年には,本装置の立ち上げを既に済ませている. 5)不純物の効果:海水中に豊富に含まれるNaClを不純物として添加した氷多結晶薄膜でも同様の実験を行い,表面融解に及ぼす不純物の効果を明らかにする.極わずかな量のNaClを添加することで,より低温下においても粒界での液相の生成が顕著に進行することを既に見出している.
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Research Products
(15 results)