2020 Fiscal Year Annual Research Report
がんの1細胞検出に資する多色多機能蛍光プローブ群の開発
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19H02826
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神谷 真子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (90596462)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 蛍光プローブ / がん検出 / 光機能性分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは前年度までに、一部のがんで活性が亢進しているgamma-glutamyltranspeptidase (GGT)を標的とした、新たな細胞内滞留型蛍光プローブ4-CH2F-HMDiEtR-gGluを開発した。本プローブはGGTとの反応によりアザキノンメチド活性中間体を産生し、それが細胞内求核分子と反応して蛍光性付加物を産生し、細胞内滞留性を獲得することが明らかとなった。そこで2020年度においては、本プローブを用いて動物個体におけるがんを高い細胞内滞留性で可視化できるか、担癌モデルマウスを用いた評価を行った。まず、卵巣がんの腹膜播種モデルマウスに本プローブと既存プローブ(gGlu-HMRG)を投与したところ、いずれを用いた場合にも腹腔内におけるがんを蛍光検出できたが、4-CH2F-HMDiEtR-gGluを用いた場合のみ蛍光シグナルに固定処理耐性があることが示された。次に、すい臓がんの患者腫瘍組織移植(PDX)モデルマウスに適用したところ、gGlu-HMRGを用いた場合には時間とともに蛍光性生成物が拡散してしまうのに対し、4-CH2F-HMDiEtR-gGluを用いた場合には長時間のがんin vivoイメージングが可能であることを示した。また、in vivo蛍光イメージング後に腫瘍組織を摘出して免疫染色を行うことも可能であり、4-CH2F-HMDiEtR-gGluは既存プローブに比べて高い細胞内滞留性・固定処理耐性を有することが示された。一方で、本プローブではGGTを発現するがん細胞をシングルセルレベルで検出することが難しいことも明らかとなったため、GGTとの反応によりキノンメチド活性中間体が産生する新たな細胞内滞留型蛍光プローブを設計・開発を行い、次年度に繋がる結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分子内スピロ環化平衡に基づく蛍光制御とアザキノンメチド化学に基づく細胞内滞留性の制御を組み合わせて開発した、GGTを標的とした細胞内滞留型蛍光プローブ4-CH2F-HMDiEtR-gGluの担癌モデルマウスを用いた評価を行った。その結果、本プローブにより得られる蛍光シグナルは、洗浄操作や固定操作に対して耐性があり、長時間に渡るin vivoイメージングや免疫組織学染色との併用が可能であるという、従来プローブにはない特徴があることが明らかとなった。今後、がんで亢進している他の酵素を標的とした分子に展開することで、様々ながん種を高い細胞内滞留性で検出することができる新規がん診断技術の確立に繋がると考えられる。本成果は、その分子設計の独創性や生物学・医学への応用可能性が評価され、Angew Chem Int Edに採択・掲載された。 また、アザキノンメチド活性中間体とキノンメチド活性中間体では反応性が異なり、本分子設計に則りより高い細胞内滞留を実現するにはキノンメチド活性中間体を産生するよう分子を設計する方が好ましいことが明らかとなった。そこで、自己分解性リンカーを活用することで、GGTとの反応によりキノンメチド活性中間体が産生する新たな細胞内滞留型蛍光プローブの設計・開発も行った。本プローブは、GGT発現がん細胞をシングルセルレベルで検出できる可能性があり、今後に繋がる結果となった。 これらの成果は当初目標としていた計画以上の成果であったため、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
4-CH2F-HMDiEtR-gGluの課題を克服し得る新たな蛍光プローブを開発したため、今後は、新たに開発したプローブのin vitroでの酵素反応、求核性種との反応性を評価するとともに、培養細胞を用いた性能評価を順次進めていく。つまり、GGT高発現細胞・低発現細胞を用いた蛍光イメージング実験を行い、GGT活性のライブ検出が可能か、またその蛍光シグナルの細胞内滞留性・固定処理耐性を評価するとともに、GGT高発現細胞・低発現細胞の共培養系に適用した際に、GGT発現がん細胞のみをシングルセルレベルで検出することが可能か評価していく。また、これまでに開発した赤色領域で機能するbeta-galactosidase(beta-Gal)を標的とした細胞内滞留型蛍光プローブと組み合わせて用いることで、GGTとbeta-Galの活性パターンが異なる細胞種の染め分けが可能かを精査し、本研究が目指す酵素活性パターンの識別によるCTC検出の実現に向けた検討を行う。その他、緑・赤とは異なる波長域で機能する蛍光骨格の選定、パイロット化合物の合成、in vitroでの光学特性の評価・最適化を行い、多色化したプローブ群の開発と幅広い標的酵素に対応した蛍光プローブ群の設計法の確立を目指す。このような検討を通じて、がん細胞が有する特徴的な“酵素活性パターン”を可視化する多色・多機能な有機小分子蛍光プローブ群を開発していく。
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Research Products
(10 results)