2020 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノムの再編成による多様な人工ゲノムを持つ酵母細胞の創成と育種への応用
Project/Area Number |
19H02878
|
Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
原島 俊 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (70116086)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹野 佑 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (90640194)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 出芽酵母 / ゲノムの再編成 / ゲノム編集 / 人工ゲノム / 染色体複数部位の同時操作 / 複数ガイドRNAの同時発現 / ゲノム干渉 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的の有用物質生産に最適なゲノム(ベストゲノム)を自在に創製できる育種技術の開発は微生物工学者の夢である。しかし、DNAを化学合成できる時代にはなったものの、未だに”ベストゲノム”を設計できる理論基盤があるとは言い難い。そうした状況下で考えられる戦略のひとつは、既存のゲノムを持つ微生物から出発して、天文学的な種類のゲノム組成を持つ細胞集団を創成し、その集団から、目的生産物の生産に最適な細胞をスクリーニングすることであろう。そうして得た細胞のゲノム解析からベストゲノムを合理的に設計できる理論を確立できることが期待できる。申請者らは、この目的を実現するための技術として、出芽酵母を材料にゲノムの多様性を創り出す様々なゲノム工学技術を開発してきた。 これまでに、i) 染色体を分断する方法(PCS法)、ii) 染色体の部分重複を作る方法 (PCDup法)、iii) 染色体の部分欠失や置換を作り出す方法(PCD/PCRep法)など、ゲノムを操作できる多様な技術を開発し、30報の論文として発表してきた(Nucl Acids Res, Sci. Rep など)。しかし、これらの方法のいずれにおいても、多様なゲノムを持つ細胞集団を効率良く創成するには、1回の形質転換で複数の部位や領域を同時に、しかも簡便に操作できる技術が不可欠である。そこで本年は近年目覚ましい発展を遂げているゲノム編集技術に、申請者らが開発してきたゲノム工学技術を融合し、たった1日で複数のガイドRNA(gRNA)を発現できるDNA断片をPCR技術のみを使って調製し、一度の形質転換で複数の標的部位や領域を操作できる新しいゲノム工学基盤技術(PCR-mediated gRNA/tRNA法の開発を行なった。その結果、この技術に必要な鋳型プラスミドの構築など多様なゲノムを一度の形質転換で創成できる技術基盤を確立することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年までに、多様な人工ゲノムを持つ酵母細胞の創出を目指して、染色体の分断(PCS)、部分重複(PCDup)、部分欠失(PCD)、部分置換(PCRep)などのゲノムの多様性創出技術を開発してきた。その結果1回の形質転換により同時に複数部位の操作が可能になった。しかし同時操作できる数を3箇所以上にすることは非常に困難であった。そこで、本年度は、1回の形質転換によって同時に操作できる標的数を少なくとも6個にすることを目指して実験を行なった。これが可能になれば、3回の形質転換によって18本のミニ染色体を作ることができ、理論的には262,144通り(= 18Cr, r= 1-18)の人工ゲノムを持つ細胞を構築できる。しかし、種々実験を行なった結果、同時に4箇所以上の標的を操作することができなかった。 そこで、次に、近年目覚ましい発展を遂げているゲノム編集(CRISPR/Cas9)技術やGolden gate assembly技術に、申請者らが開発してきたゲノム工学技術を (gRNA-TES法;J.B.B,2019)融合し、一度の形質転換で少なくとも5つの標的部位や領域を操作できる新しい技術の開発を行なった。その結果、PCR-gtRNA法に必要な共通鋳型プラスミドの構築など、多様性ゲノムを一度の形質転換で効率よく創成できる基盤技術(PCR-mediated gRNA/tRNA法:PCR-gtRNA法と呼ぶ)を確立することができた。この技術では、たった1日で複数のガイドRNA(gRNA)を発現できるDNA断片をPCR技術のみで調製できる。しかし、この技術が普遍的にどれくらい有用かを評価することについては今後の研究にかかっている。 計画したことの半分は達成したが、達成できていない部分もあることから、最上位の次の区分である「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の目標は、その基盤を確立したPCR-gtRNA法の有効性、普遍性を検証することである。そのため、一つには申請者が明らかにした出芽酵母ゲノムで削除可能な44の領域(10kb以上の大きさを持つ)のうち6つの領域を選び、その領域をPCR-gtRNA法を利用した一度の形質転換によって、いかに簡便にミニ染色体化できるかを検証する。3回の形質転換によって18個のミニ染色体ができればその脱落の組み合わせによって理論的には262,144通りの人工ゲノムを創出できる. さらに、上記のような基盤技術の開発と並行し、PCR-gtRNA法のゲノム干渉(CRISPRi)への応用も試したい。すなわち醸造酵母など多くの産業酵母が接合能を持たないことから接合能を利用した育種の大きな障害となっている。そこで、開発した技術によってこの問題の解決を目指す。出芽酵母はaまたはαの2種の接合型を持っており、2種の接合能はMATa及びMATα遺伝子によって支配されている。a細胞とα細胞を混合培養すると接合しa/α細胞ができるが、a/α細胞は接合能を示さない。産業酵母は、こうしたMATaとMATαの共存によって接合能を示さないことがわかっている。従って産業酵母に接合能を付与するにはMATaあるいはMATα遺伝子の発現を選択的に抑制できれば良い。そのためMATaあるいはMATα遺伝子の発現を、dCas9(DNA切断能を持たないCas9)を利用したゲノム干渉によって抑制することを考えた。しかし、ゲノム干渉の程度は、dCas9を標的遺伝子転写開始部位のどこに結合させるかによって大きく影響されることが知られている。そこでPCR-gtRNA法を応用して、転写開始領域の少なくとも5箇所に同時にgRNAを結合させ、接合能を示さない産業酵母に接合型を付与できるかどうかを検証する。産業酵母に接合能を付与する技術を開発することができれば多様な形質を持つ産業酵母を自在に育種することが可能となり産業酵母の育種の世界は一変することが期待できる。
|