2019 Fiscal Year Annual Research Report
過酸化脂質異性体解析から切開く酸化原因特定と健康・食未来社会へ繋げる酸化最適制御
Project/Area Number |
19H02901
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
仲川 清隆 東北大学, 農学研究科, 教授 (80361145)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永塚 貴弘 東北大学, 農学研究科, 准教授 (30445895)
伊藤 隼哉 東北大学, 農学研究科, 助教 (50781647)
加藤 俊治 東北大学, 農学研究科, 助教 (60766385)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 過酸化脂質 / 酸化機構 / LC-MS/MS / 抗酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
何らかの原因(ラジカル酸化、酵素酸化、一重項酸素酸化、等)で、ヒトの身体を構成する脂質分子が酸化され、過酸化脂質(脂質ヒドロペルオキシド)が生じると、疾病などの生体機能の攪乱を招く。食品における油脂の酸化劣化は品質に深く関わり、動植物も同様である。故に、身体や食品でどのような酸化反応が惹起されているかの見極めは極めて重要となる。従来、この見極めは夢物語であったが、応募者らは質量分析(LC-MS/MS)を駆使し、生体や食品に含まれる過酸化脂質を異性体レベルで解析することで、この見極めを実現しつつある。そこで本研究では、本法を完成させ、幅広い試料に応用する。酸化反応を見極め、従来は困難であったその種類に応じた最適な制御に挑む。本ストラテジーに基づき、プレシンギュラリティ時代を生き抜く新機能性食品(抗酸化食品)を創成し、ヒト・健康・AIの新たな関係性構築へと繋げる。加えて食の領域で、油脂酸化のさらなる徹底管理を可能とし、食の安全性担保とフードロス削減への原点回帰を図るとともに、極微量な酸化物の構造制御を介してヒトを魅了できる味・香り・物性のプロデュースへも新展開する。こうした基盤的研究を推進し、本研究領域に関する未来社会へ立ち向かえる基盤価値を創造する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らはこれまでに、質量分析を用いて、リノール酸やアラキドン酸のヒドロペルオキシド異性体の分析法を構築してきた。さらに近年、本手法がドコサヘキサエン酸など全ての脂肪酸ヒドロペルオキシド(FAOOH)異性体分析へも適用できる手掛かりを得た。そこで令和元年度は、本法が様々なFAOOHやこれを有する多様な過酸化脂質異性体(位置異性体やcis-trans異性体)に有用であることを分析化学的手法を駆使して実証し、LC-MS/MSによる分析法をさらに高度化した。さらに、既に着手している様々な生体サンプルについて、上記の方法で種々の過酸化脂質(リン脂質ヒドロペルオキシド(PCOOH)やトリアシルグリセロールヒドロペルオキシド(TGOOH)、コレステロールヒドロペルオキシド(CEOOH)、FAOOH等)の異性体を解析し、生体脂質の酸化原因を評価した。具体的には、肥満モデルの血漿過酸化脂質異性体の解析から、ラジカル酸化の亢進を実証した。このように、酸化原因の見極めが特定の病気の発症機序の理解を深めることを実証した。 食品脂質は製造・加工・輸送・販売・保管・調理などの過程で酸化され、我々の方法を用いれば「いつ・どこで・どのくらい・何によって酸化されるのか」が明確にわかると言える。例えば我々は、食用油脂のTGOOH異性体の解析を達成し、新鮮な菜種油にもTGOOHが含まれ、店頭の菜種油は光酸化(一重項酸素酸化)異性体が特に多いことを見出した。そこで令和元年度は、TGOOHに加え、様々な食品に含まれるPCOOHなどの過酸化脂質異性体を解析した。そして、乳化製品や熟成食品、発酵食品なども解析し、従来ほとんど知られていない脂質の存在形態(ミセル、エマルション、リポソーム、等)と酸化機構の関係解明を進めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
生体脂質の酸化原因の解明:昨年度に続き、分析法の発展を進めるとともに、動脈硬化や糖尿病などの各種臨床サンプルの解析を進める。具体的には、ここまでに構築した方法や今後構築する方法を用いて、FAOOHやPCOOH、TGOOH、CEOOHの異性体を解析し、各種疾患の血中や病変部で起きている脂質酸化機構を明らかにし、病態への脂質過酸化の関与解明をさらに深めていく。そして、得られた結果を基に、酸化原因の抑制に最適な食品成分の探索を行っていく。すなわち、ラジカル酸化にはビタミンE、一重項酸素酸化にはカロテノイドなどの抗酸化物質が有効なのかを、種々の疾病動物モデルや培養細胞モデルを用いて明らかにしていく。
食品脂質の酸化原因の解明:これまでの研究で、食品脂質の酸化機構(すなわち、どのようなヒドロペルオキシド異性体が食品中に生成するのか)が明らかになりつつある。今後も様々な食品の脂質酸化機構を明らかにし、各食品の酸化機構のデータベース作成を進めるとともに、最適な抗酸化法(包材の検討や抗酸化物質、保存方法など)を探っていく。加えて、このような脂質酸化(脂質ヒドロペルオキシド異性体)が食品の風味にどのような影響を与えるのかを評価していく。具体的には、各ヒドロペルオキシド異性体から生成する香気成分をガスクロマトグラフィー質量分析計などで解析し、食品脂質の酸化機構と風味変化を解析していく。
|
Research Products
(35 results)