2020 Fiscal Year Annual Research Report
日本に生存する外国産トネリコ類のAsh dieback発病回避メカニズムの解明
Project/Area Number |
19H02988
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山岡 裕一 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00220236)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉井 裕 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50281796)
石賀 康博 筑波大学, 生命環境系, 助教 (50730256)
岡根 泉 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (60260171)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植物病理学 / 樹病学 / 菌類 / 抵抗性 / 内生菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
セイヨウトネリコとホソバトネリコの切り葉にHymenoscyphus fraxineus子嚢胞子を接種した結果、宿主細胞の反応に差が認められた。子のう胞子接種後のトネリコ属3種の葉から全RNAを抽出することに成功した。さらに、抵抗性マーカー遺伝子をそれぞれの植物の遺伝子情報から推定し、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析用のプライマーを作製した。 本菌に対するトネリコ属植物の感受性・非感受性の判別に有効とされるMADS BOX転写因子コード領域の一塩基多型(SNP)マーカーを解析した結果、北大のセイヨウトネリコとヤチダモはSNPマーカー“A”(感受性)、ホソバトネリコは“A/G”(非感受性)を有していた。北大のセイヨウトネリコとヤチダモは、SNPマーカーと関連しない別の要因により発病抑制している可能性が示唆された。 北大のセイヨウトネリコ、ビロードトネリコ、ヤチダモならびにノルウェー産のセイヨウトネリコ発病個体の葉を供試し、メタゲノム解析による葉圏菌類の網羅的解析および内生菌の分離(北大の個体のみ)を行った。その結果、北大のセイヨウトネリコの内生菌相、葉圏菌類相がその他の試料とは異なり、特にAureobasidium pullulansが葉圏で優占していた。 分離された内生菌の拮抗作用検定の結果、Diaporthe pseudomangiferaeは対峙培養でH. fraxineusの菌糸伸長を強く抑制し、A. pullulans他2種の浸出物が子嚢胞子の発芽を阻害した。A. pullulans の細胞懸濁液と培養濾液を処理したセイヨウトネリコの生葉上で、弱い子嚢胞子発芽抑制効果が認められた。以上のように、内生菌類のH. fraxineusに対する拮抗作用が確認できた。 北大の試験地では、セイヨウトネリコの大木の下にその苗も発病せず多数生存していることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「日本で生存している外国産トネリコ属植物個体の抵抗性評価とメカニズムの解明」については、やや遅れ気味であるが、供試した外国産トネリコ属植物の個体間で、H. fraxineus感染時の反応に差があることが認められた。その後の菌の挙動についてはまだ不明の点もあるが、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析用のプライマーを作成し、抵抗性関連遺伝子の発現を調べるための準備が整った。また、SNPマーカー解析により、北大のセイヨウトネリコとヤチダモが感受性個体である可能性が示されたことも、重要な成果と考える。 「成木上に生息する内生菌類相の比較」については、順調に成果を上げており、H. fraxineusの子嚢胞子発芽や菌糸成長に拮抗作用を示す内生菌が存在することを明らかすることができた。これらの内生菌類或いは葉圏菌類がセイヨウトネリコの生存に大きく関与している可能性が示唆されたと考える。 「病徴発現に及ぼす環境要因の影響」については、北大での調査結果から、生存するセイヨウトネリコ大木の下に苗が多数生育し、人為的に刈らない限りは生存しているようであることから、これら個体を生存可能としている主要因が環境要因である可能性は低いと考えられる。 以上のように、当初の目標をほぼ達成してきていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.日本で生存している外国産トネリコ属植物個体の抵抗性評価とメカニズムの解明: 外国産トネリコ属植物であるセイヨウトネリコとホソバトネリコならびに日本産のヤチダモの苗を用いて、H. fraxineusの子嚢胞子による葉への接種、および含菌寒天片を用いた葉柄または茎への接種を行い、植物組織内での菌の挙動と植物組織の反応を観察するとともに、作製したプライマーを使用して、それぞれの植物での抵抗性マーカー遺伝子の発現プロファイルを解析する。以上の結果から、無発病の外国産トネリコ属植物個体上でのH. fraxineusの動態ならびに子嚢胞子感染時および組織内での菌糸進展時の宿主の反応を明らかにし、抵抗性メカニズムの解明を目指す。 2.成木上に生息する内生菌類相の比較: H. fraxineusの子嚢胞子の発芽を阻害したAuerobasidium pullulansおよびその他の内生菌のH. fraxineusに対する拮抗作用について、セイヨウトネリコ若木を用いたin planta試験により評価しAsh diebackの防除に資する菌類の探索を行う。以上の結果から、内生菌類がAsh diebackの発病抑制に対する関与することを証明し、本病外の防除法への応用を検討する。 3.病徴発現に及ぼす環境要因の影響:発病個体と無発病個体のフェノロジーに関する情報を収集し、発病と環境要因との関係性を考察する。また、光条件など異なる栽培条件で栽培したトネリコ属植物の苗を用いた接種試験を行い、環境要因の発病に対する影響を評価する。これらの結果から、H. fraxineusの感染と発病に対する環境要因の影響を評価する。
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