2020 Fiscal Year Annual Research Report
それぞれのクマの春と夏の過ごし方-個体レベルの生態学的・生理学的研究-
Project/Area Number |
19H03002
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
山崎 晃司 東京農業大学, 地域環境科学部, 教授 (40568424)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪田 敏男 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10207441)
森光 由樹 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (20453160)
小池 伸介 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40514865)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ツキノワグマ / 行動生態 / 繁殖生理 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で,クマの秋期の行動生態に関する知見を蓄積してきた。食欲亢進期の秋期には,堅果を飽食して体重を増したいが,結実量は植物の側の繁殖戦略として年周期や地域周期があり,クマは毎年安定して堅果を利用できないことが示された。堅果結実の多寡が,クマの長距離移動を誘発して,人との軋轢を生じさせることも分かった。しかし,クマの大移動は,春期や夏期にも起こり,その発生機序は疑問のままである。 春期から夏期は,食物の利用可能量の観点から,クマにとってのcritical seasonと考えられる。一方,冬に出産を行ったメス成獣は,育児に投資をすべき重要な時期である。成獣オスや単独メスでは,次世代を担う発情・交尾シーズンでもある。食物資源が乏しい中,個体によっては種の存続のために頑張るべきが春期から夏期といえる。本研究は,この季節のクマの生態と生理を,新機材や手法を用い,個体レベルで詳しく解明する。 本研究では「秋の食欲亢進期(飽食期)に蓄積された体脂肪は,越冬期間のみならず,翌年冬眠明けの春から夏にかけても利用される。そのため食物資源量に乏しい年の夏には,“夏眠”のように活動量を低下させてしのぐ。ただし,繁殖活動に参加する個体や育児中のメスは,異なった応答を見せる」という仮説を設定している。 2020年度では特に,これまでに蓄積された血液サンプルによる性ホルモン値と,個体のコンディション(Body Condition Index(BCI))の比較検討により,オス成獣の発情発動の機序のひとつとして,栄養状態が大きな意味を持つことを明らかにした。ただし,皮膚線(アポクリン腺など)の発達とホルモン値の間には,ヒグマで観察されたような相関は認められなかった。また,ビデオカム付き首輪の装着により,オスおよびメスの配偶行動の観察に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナの影響により,現地調査の開始時期が6月に遅延した。しかし,その後の補完調査により遅れをおおむね取り戻し,予定されていた研究計画の大半を実施することができた。ただし,野外への自動体重計の設置と,ドローンを用いたツキノワグマの行動観察(社会的ステータスの確認など)は,2020年度は実施することが出来なかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は2020年度に引き続き以下の課題に取り組む。なお,2020年度は新型コロナの影響により野外調査の開始時期が遅延したため,その補完データ収集を試みる。 (a) 栄養状態の通年変化: 秋に蓄積した体脂肪の通年の消費スケジュールを検証する。実際の栄養状態を捕獲時にBody Condition Index(BCI)により推定すると共に,野外に設置した自動体重計により同一個体の季節的な体重変化の把握を試みる。個体の識別には,胸部斑紋の形状と,自動体重計周りに設置したヘアトラップで採取した体毛の遺伝解析により行う。また,活動量の連続的な測定からエネルギー消費量(FMR)を推定する。社会的ステータス(子の有無やオスとメスの配偶関係)の確認は,ドローンにより上空から行う。(b) 生理状態の通年変化(特に夏期): 活動量,心拍数・体温データから,個体の生理状態を再現する。特に夏を中心として検討を行い,同時期に冬眠期間中と類似する夏眠のような生理状態が認められるかの判定を,性,齢,社会的ステータスごとで行う。(c) 摂取食物の特定とその摂取量の推定: 軽量のビデオカムをGPS首輪に追加装着して,当該グマが選択した食物品目を特定すると共に,その摂取量を摂取速度と併せて推定する。この摂取エネルギーがどのように体脂肪蓄積に関与しているかについての検討を行う。(d) 集中利用された行動圏内での摂取可能エネルギー量の推定: 集中利用域の踏査により糞や食痕の確認を行い(c)の検証を補強すると共に,当該地域で実際にクマが利用した植物や昆虫を採集して,それらに含有されるエネルギー量や栄養内容を分析する。 以上より,野生グマの春期から夏期にかけての栄養状態(生理状態)の変化とそれに対応した行動の評価を行うための情報を集める。
|
Research Products
(5 results)