2019 Fiscal Year Annual Research Report
農業工学とコロイド化学の融合を基軸とする土壌・水環境保全技術の展開
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19H03070
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小林 幹佳 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20400179)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大澤 和敏 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (30376941)
大森 圭祐 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 農村開発領域, 主任研究員 (80827139)
藤巻 晴行 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (90323253)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | コロイド / 粘土 / 土壌物理 / 水環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌劣化や環境汚染物質の移動など,土壌コロイドの輸送を介する諸課題の重要性が認識されている.持続可能な食料生産基盤と農村環境を保全する観点から,より詳細に土壌コロイドの輸送を予測し制御する技術が要求される.その実現に向けては,様々な水質および水理条件において,ミクロな土壌コロイドの界面化学的特性と凝集分散特性とを理解しマクロな農業工学的な対策技術と融合させることがポイントになる.これを踏まえて本年度には,種々のコロイド粒子のゼータ電位発現の実体とその凝集分散の予測評価への有効性,コロイドの動力学的な特性の解明,凝集分散に果たす高分子の効果の解明と高度化,に取り組んだ.公表された主要な成果を以下に記す. 天然有機物と粘土コロイドの複合体を模擬する実験系として,負電荷を有するサブミクロンサイズのケイ酸微粒子と正電荷を持つナノサイズのリゾチームの混合コロイドを採用した.この混合コロイドの剪断降伏値と複合体のゼータ電位およびナノ粒子による被覆率の関係を整理した.その結果,平均的なゼータ電位による静電斥力に加えて,被覆率に依存する付加的な斥力が系全体の降伏値を支配することが明らかとなった. 天然有機コロイドからなる凝集体(フロック)の強度を収縮流場における破壊実験から推定した.得られた強度は数nNから数十nNであり,疎水性の強い成分を多く含むほど高かった.これらの値はこれまでに報告されている有機物膜で覆われた表面間の付着力と同程度であることが確認された. 火山灰土壌の代表的粘土コロイドであるアロフェンに着目し,そのゼータ電位と臨界凝集イオン強度に及ぼす陰イオン種の効果について実験的に検討した.その結果,臨界凝集イオン強度とゼータ電位はともにイオン種の影響を受けるものの,両者の関係はDLVO理論により説明可能であることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画されていた土壌・水環境コロイドの帯電と凝集分散に関する系統的な実験・解析を順調に進めている.また,モデルコロイドを対象にした新規な理論解析の方法論の構築,土壌保全効果につながるコロイドのレオロジーに関する新知見の獲得,高分子による土壌構造安定化に関するデータの取得が実施されている.得られた成果は可能な範囲で速やかに公表し,討議を通してさらなる改善を図っている.公表された成果をもとにして,共同研究者の学会でのポスター賞受賞や所属組織での表彰実績があり,客観的にも良好な評価を得ている.以上より研究は順調な進捗状況にあると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度当初である現在,COVID-19のために各研究者の実験施設を2-3カ月ほど利用できないという不測の事態が発生し,実験の中断を余儀なくされている.可能な範囲で理論モデルの構築やこれまでの結果を整理する方向にリソースを移し,実験の中断による遅れの影響を最小化するよう努める.所属組織での実験が可能になった段階で以下の項目に重点的に取り組む. 天然およびモデルコロイドのゼータ電位と凝集速度を光散乱法により求める.実験では,イオン種と価数の異なるイオンの組成,pH,イオン強度,疎水性分子の種類と添加量を変数とする.得られた結果を,これまで検証してきた電気二重層モデルと水力学に基づく電気泳動式に,新たに添加物質の効果を考慮した改良を組み込み,その展開を図る. 天然有機物フロックの強度値は既往に報告されておらず,新規な成果として期待できるので系統的な実験を継続する.加えて表面間力測定の既往結果と関連付けるべく,背景理論の再整理を行う. さらに高分子の効果については,ポリエチレンオキサイドによるシリカコロイドの力学的刺激によるゲル化,ポリアクリルアミドによる土壌構造の安定化効果を実験的に検討してきた.これらの結果を取り纏め,成果を公表できるよう分析を進める.
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