2020 Fiscal Year Annual Research Report
飼養管理が牛の繁殖性と卵巣機能に与える影響:牛卵子内の脂質組成と発生能の関係
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19H03117
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
永野 昌志 北里大学, 獣医学部, 教授 (70312402)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 宏一郎 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20301872)
窪 友瑛 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 農業研究本部 酪農試験場, 研究職員 (50825338)
惠 淑萍 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90337030)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 卵子 / 発生能 / 抗酸化剤 / 遊離脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳期の異なる乳牛、すなわち分娩後日数が異なり、身体を維持するためのエネルギーバランスの異なる乳牛から採取した卵子および血中の遊離脂肪酸(FFA)とトリアシルグリセロール(TAG)について、多変量統計分析と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー-高分解能タンデム質量分析によってリピドミクスプロファイリングを行った。乳牛を分娩後25~47日(泌乳初期)、61~65日(泌乳中期)および160~202日(泌乳後期)と未経産牛に分類して検討したところ、血中FFA濃度と卵子TAG含有量は正の相関を示した。泌乳初期の乳牛は、未経産牛と比較して高い血中FFAおよび卵子TAG含有量を示し、分娩後の低栄養によって動員された体脂肪が全身循環を通じ、卵子内にTAGとして貯留すると考えられた。高濃度のFFAは牛卵子に対して毒性をもち卵子発生能が低下することが知られている。卵子内のTAG量が増加することは、FFAの細胞毒性を緩和する作用があると考えられた。また、卵子の体内での発育を模倣するため、発育途上にある小さな卵子を初期胞状卵胞から採取し、発育培養に関する研究も行った。牛卵子の発育培養では2週間程度の長期間培養が行われているが、長期間の培養では卵子を覆う顆粒層細胞数が増えすぎ、内部が低酸素状態になることで卵子の発生能が抑制される可能性がある。また、体内で初期胞状卵胞が発生能を持つ卵子を有する胞状卵胞に発育するのに必要な期間はおよそ1週間と考えられることから、底面からガスが透過する培養容器を用いて卵子発育培養を行った。その結果、ガス透過性容器を用いることで細胞内での活性酸素種(ROS)産生が増え、卵子発生能は低下するものの、抗酸化剤であるアスタキサンチンを添加することで、卵子生存性・発生能は向上し、8日間の発育培養により胚移植可能な胚盤胞への発生能を有する卵子を算出できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のとおり、乳期の異なる生体から採取した牛卵子について、脂質の分析を行い、血中の脂質と卵子発生能および脂質代謝の関係を明らかにした。しかし、コロナ感染拡大の影響で北海道内農場における濃厚飼料を多給されている牛からの卵子採材が予定より少し遅れ、現在、採取材料の分析を行っているところである。発生能を獲得する前の発育途上にある卵子をと体卵巣から採取し、発育培養を行って高い発生能を獲得させる研究は予定通りに進行している。また、生体牛から発生能の高い卵子を採取するためのホルモン投与法を検討するとともに体外受精を行いその発生能を検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
乳期・飼養管理の異なる生体乳牛から採取した卵子について、乳期ごとの卵子内脂質組成を比較するとともに、卵子発生能に関連するインスリン様成長因子の血中濃度を測定し、卵子内脂質や母体のホルモン状態が卵子の発生能について体外受精を用いて確認する。また、体内で発育する卵子の発生能を向上させるようなホルモン投与あるいは飼料添加物についても検討を行う。発生能獲得前の牛卵子については、上述の発育培養法を改良し、より体内近い発生能を有する卵子生産のための培養系確立を目指す。
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