2019 Fiscal Year Annual Research Report
根の成長を最適化する根冠組織の特異的機能とその時空間統御
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19H03248
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80273853)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮島 俊介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (20727169)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 根冠 / 細胞剥離 / 細胞分化 / 根圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、①根冠内の位置に応じて構成細胞が機能を転換させる機構の解明と、②時空間的に統御された代謝産物の産生と放出が土壌微生物との相互作用に果たす役割の解明、の2つの課題に取り組んでいる。本年度の研究により以下の成果が得られた。 ① 根冠の中央を占めるコルメラ細胞は、内層では重力感受細胞、最外層では分泌細胞として機能する。この分化転換時の細胞内の構造変化を蛍光染色や蛍光レポーターラインを用いて観察した結果、重力平衡石として機能するアミロプラストが、内層の重力感受細胞では細胞の下端側に局在していたのに対し、最外層では細胞の中央部に局在していた。また液胞の形態観察を行ったところ、内層ではアミロプラストの上部(根の基部側)で折り畳まれた形態をとっていたのに対し、最外層ではアミロプラストを囲うような形態をとっていた。さらに根冠の外層で特異的に発現するBRN1とBRN2 (BRN1/2)が転写調節する遺伝子群の中に、複数の膜交通制御因子を見出した。遺伝学的実験から、これらの因子が分泌細胞に特有の液胞化とそれに続く細胞剥離に機能することを発見した。 ② 根端から剥離し土壌中に分散された生きた根冠細胞は根と土壌の境界領域を形成し、病原性微生物の繁殖抑制に機能すると考えられているが、その分子実体は不明である。我々は根冠で特異的に発現し、その機能発現を担うSMB転写因子が、抵抗性物質を産生する酵素遺伝子の発現を直接制御することを見出した。さらに同一の代謝経路の他の酵素遺伝子群も根冠内やその付近の特有の領域で発現し、かつそれらの発現領域や発現レベルが、糸状菌の感染や、ある種の植物ホルモンにより変化することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
根冠細胞の詳細な構造観察や代謝酵素遺伝子の発現解析から、根冠が発動する特異的な機能や、その分化転換過程をオルガネラレベルの構造変化や代謝経路のレベルで捉えることに成功した。さらにこれまでに蓄積してきた根冠分化のマスター制御遺伝子の遺伝学的・分子生物学的データや、独自に開発したライブイメージング技術を駆使し、上記の根冠機能発現を駆動する遺伝子群を同定した。本年度の研究により、根冠の新たな機能や細胞動態を発見したばかりでなく、それらに機能する新規な遺伝子を発見し、その機能的発現パターンをリンクすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、①根冠内の位置に応じて構成細胞が機能を転換させる機構の解明と、②時空間的に統御された代謝産物の産生と放出が土壌微生物との相互作用に果たす役割の解明、の2つの課題に取り組んでいる。今後は以下の計画に沿って研究を進める。 ① 根冠細胞の分化転換をオルガネラレベルでより詳細に解析するため、水平光軸型動体トラッキング顕微鏡を用いて、より広範な種類のマーカーラインの観察を行う。また最外層細胞の液胞化と細胞剥離の関係を明らかにするため、液胞化に関与することが予想される因子群の発現解析と変異体の表現型解析を、上記のイメージング技術を用いて進める。またBRN1/2の発現が、外側の根冠細胞で特異的に活性化される機構を明らかにするため、BRN1/2マーカーラインを用いた変異体スクリーニングを開始する。 ② 代謝産物の病害応答性や根の成長動態を、動体トラッキング顕微鏡を用いたイメージングにより解析する。また代謝酵素遺伝子の変異体や過剰発現体を同様に解析し、これらの経路が根と根圏微生物の相互作用に果たす役割を明らかにする。病害微生物やホルモン応答に関与する経路を明らかにするため、候補となる受容体やシグナル伝達因子をコードする遺伝子の変異体を作出し、代謝酵素遺伝群の発現変化や感染防御能への影響を解析する。
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