2020 Fiscal Year Annual Research Report
タイトジャンクションは、腫瘍形成を如何にオーガナイズするか?
Project/Area Number |
19H03453
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田村 淳 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授 (00362525)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 胃型クローディン18 / 胃上皮バリアと胃腫瘍 / タイトジャンクション / ノックアウトマウス / 細胞組織のヘテロ性 / ピロリ菌 / 組織微小環境 / 長期観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
タイトジャンクション(TJ)は、上皮細胞の細胞間透過性を制御する、生体内唯一の細胞間接着装置である。TJがつくるバリア(TJ-バリア)の異常は、体外へ水を漏出させたり、細菌毒素を侵入させ炎症性腸疾患を 導くなど、重篤な病気や死に直結する。しかし近年の研究成果は、TJ 形成の構成単位分子であるクローディン分子(Cldn)分子が、細胞増殖や分化・極性異常・臓器組織の構造決定・がんのイニシエーションなど、多細胞生物システムを上流から操作するオーガナイザーとして働くことを示す。本申請では、胃に腫瘍を形成する胃型 Cldn18 欠損マウスに焦点を当て、Cldn分子の腫瘍形成の直接的・間接的なオーガナイザーとしての機能と、がん抑制操作法の開拓を目指す。 研究2年目の本年は、昨年に続き、複数の疑問点の解決を進めた。(1) 電子顕微鏡学的な解析を加えた、組織細胞レベルでの解析を進めた。(2) 胃型Cldn18マウスTJ異常による胃炎は、壁細胞数が減少し、胃酸が炎症の持続剤にならなくなっても、組織修復が十分進まない。細胞分化、増殖、炎症などと関連付けながら、表現型の進展・完成について、時間空間的な、追跡をさらに進めた。(3)その名前からも、悪性化が連想されるInvasive glandについて、その発生過程の解析を進めた。Invasive gland は、KO個体での発生率は高くない為、n数を増やしながら、さらに詳細な解析を進めたい。(4) 胃型と肺型のCldn18がつくるバリア特性の違いについて、生理学や細胞生物学的な検討を進めている。(5)TJ関連遺伝子変異マウスの解析を進めている。 組織微小環境、組織のヘテロ性に注目し、上皮細胞間バリアが如何に病態を制御するか、さらに解析を深めていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目の本年は、Q2: 胃型Cldn18マウスにおけるTJ異常は周囲の細胞の分化状態や幹細胞性に影響する。昨年に続き、電子顕微鏡学的な解析を加え、組織細胞レベルでの解析を進めた。Q3:胃型Cldn18マウスTJ異常による胃炎は、壁細胞数が減少し、胃酸が炎症の持続剤にならなくなっても、組織修復が十分進まない。炎症のシグナル解析とともに、細胞分化、増殖、炎症などと関連付けながら、表現型の進展・完成について、時間空間的な、追跡をさらに進めた。Q4: TJ異常と組織構築を結び付ける変化として『invasive gland』がある。EMT誘導するサイトカインCXCL5の上昇度とInvasive glandの形成率との相関が示唆されており、相関関係を含む細胞生物学的な解析を進めている。Invasive glandについては、その名前からも、悪性化が連想されるが、基底膜を貫通する領域はないようであり、発生過程で生じる現象と考えられた。Invasive gland は、KO個体での発生率は高くない為、n数を増やしながら、さらに詳細な解析を進めたい。Q5:胃型Cldn18欠損によるTJ異常は『lungCldn18ではレスキューできない』ことが明らかになっている。解析可能な細胞系の構築を進めた。今後、胃型と肺型のCldn18がつくるバリア特性の違いについて、生理学や細胞生物学を用いて検討し、相互代償が不可能な理由について、詳細に検討を行う。Q8:『CRISPR-Cas9を用いたTJ関連遺伝子変異マウスの作製と解析』- TJ関連遺伝子変異マウス作製を進めた。本遺伝子の個体での分子レベルの解析を進めた。成果については、次年度までに、まとめたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究最終年度に当たる。その為、これまでに未解決で残った課題の解決を目指す。 特に、胃酸による攻撃により減少する壁細胞数が低下しても、胃組織の修復機転が、大きく活性化されない疑問点「TJ異常はなぜ『創傷治癒を招かずに慢性炎症を持続し、腫瘍向性組織を構築するのか?』(Q3)」について、シグナル伝達を含む解析をさらに進める。これまで、炎症の惹起やがんの発生については広く解析が進められているが、修復についての生体を対象とした解析は十分ではない。原因が減少していながら、修復・再生されない理由の解決は、褥瘡や加療中の慢性疾患ともつながるものがあると考える。また、発生過程で生じる奇形と言えるinvasive glandについても、発生個体の割合が少ないこともあり、十分な解析が進んでいないので、n数を増やした解析を進めたい(常はなぜ『invasive gland をつくるのか?』 Q 4)。基底膜下に大きなcystを構築する表現型が見られることは、タイトジャンクションが接着やチャネル活性などを介して、発生過程での組織構築にも欠かせないこと示唆するため解明していきたい。同時に、腫瘍構築時の組織変化との関連性も示唆される。本マウスでは、胃腫瘍を構築するものの、がん化には至らない理由を明らかにする(TJ異常はなぜ『Cldn18KO の胃腫瘍は転移・浸潤が見られないか?』Q6)。 以上を中心に、一般的な表現型解析の済んでいる胃腫瘍形成性Cldn18遺伝子欠損マウスを主な対象に、タイトジャンクション(TJ)-クローディン(Cldn)の、腫瘍形成のオーガナイザーとしての分子メカニズム解析を進め、タイトジャンクション-クローディンの上皮細胞間バリア以外の多様な機能についても、総合的に理解を目指す。
|