2020 Fiscal Year Annual Research Report
炎症性腸疾患の腸管上皮再生過程における大腸幹細胞ニッチの分子基盤の解明
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19H03455
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐々木 伸雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30777769)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 潰瘍性大腸炎 / オルガノイド / 幹細胞 / ニッチ / 組織再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究は,従来の免疫細胞を標的とした治療法の開発とは異なり,障害を受けた腸管上皮細胞自体の再生イベントを標的とした研究である.これまでのDSS誘導性大腸炎モデルマウスの研究成果により,炎症障害を受けた大腸上皮においてはLgr5+幹細胞のみならず,Reg4+ニッチ細胞も同時に消失することを明らかにしてきた.また,シングルセルレベルでの解析により,この障害を受けた幹細胞微小環境が再生する過程を時空間的に詳細に解析してきた.そこで本年度は,障害を受けた腸管上皮細胞が修復する過程においてLgr5+細胞とReg4+細胞の関係性に注目して研究を進めてきた.その結果,再生が活発に行われている領域において,幹細胞より先にニッチ細胞が出現することを見出した.この先行出現するReg4+細胞は,炎症障害で失った幹細胞が再出現するための重要な領域となりうる可能性を示唆するものであった.さらに,炎症障害から再生してくる腸管上皮細胞がLgr5+幹細胞に由来することを証明するために,新しくLgr5+幹細胞のみを時期特異的に除去できるマウスを導入した.この遺伝子改変マウスを用いて再出現するLgr5+細胞を除去した結果,Reg4+細胞を除去した場合と同様に上皮再生に遅延がみられた.これらの結果は,炎症障害から回復する腸管上皮の再生は,Lgr5+幹細胞を頂点とした幹細胞ヒエラルキーによって制御されていることが示唆された.また我々はオルガノイド培養法を活用することで,シャーレ上で擬似的に炎症障害を誘導できる培養法の開発に成功した.これにより炎症障害から再生過程で観察される上皮細胞のイベントを分子レベルで詳細に解析できることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,昨年度に得られた知見に基づいた上皮組織の再生過程の実態に迫ることに成功している.具体的には,炎症障害で消失したLgr5+幹細胞が再出現するためには,まずその幹細胞微小環境であるニッチが構成されることを明らかにした.これは組織幹細胞学で注目を集めている“可塑性”を制御するメカニズムの理解の一端を担うものであると考えられる.さらに我々は,新規遺伝子改変マウスを導入して,再生過程における直接的な幹細胞の重要性を示すことにも成功した.これらの成果は,本課題研究の主題である炎症障害をうけた大腸上皮細胞が修復する過程において,腸管上皮幹細胞とそれを制御するニッチとの関係性を示唆するものであり,我々の作業仮説を裏付ける重要な証拠である. さらに佐藤俊朗教授(慶應大・オルガノイド医学)と協力し,潰瘍性大腸炎 (UC) ヒト患者から樹立したヒト炎症性オルガノイドの解析を行った.UC患者の炎症部から樹立したオルガノイドにはIL-17Aシグナル経路を構成する多くの因子に突然変異が挿入されていたため,UC患者由来オルガノイドにはIL-17AやTNF-aなどのサイトカインを添加しても,このオルガノイドは耐性を示すことが分かった.そこで新規大腸炎モデルオルガノイドを利用することで,炎症障害およびその再生過程の詳細な分子レベルの変化を解析することが可能になった. 以上のことより,本年度に設定してたマイルストーンは全て達成しており,来年度以降の腸管上皮細胞の再生過程の分子基盤を解析するツールを得ていることから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究も同様にマウスを用いたin vivo試験とオルガノイドを利用したex vivo試験を平行して進めていく. 1.DSS薬剤誘導型大腸炎マウスモデル試験 これまで我々が利用してきた大腸炎マウスモデルはDSS薬剤を自由飲水法により5日間投与し,大腸で炎症を誘発させる方法である.数多くの予備検討により安定的に大腸炎を誘発することが可能になったが,細長いチューブ状の大腸において炎症を発生させる場所をコントロールできないという問題が残されていた.しかし,慶應義塾大学信濃町キャンパスの共同利用研究室にバーチャルスライドスキャナが導入されたことにより,大腸全体を組織図を短時間で取得できるようになった.そこで本年度は,幹細胞やニッチ細胞の機能を阻害したマウスを用いて,大腸炎から回復する過程を腸管組織全体(マクロ)と細胞レベル(ミクロ)で観察し,様々なマーカー遺伝子の発現パターンを定量的に解析し,腸管上皮細胞の再生過程を時空間的に理解すること目指す.
2.オルガノイドを利用した疑似炎症ex vivoモデル 昨年度はヒト潰瘍性大腸炎(UC)患者からオルガノイドを樹立し,全ゲノム解析によりIL-17Aシグナル経路に関する突然変異がUCオルガノイドで優位に検出されることが分かった.そこで我々はオルガノイド培地に適切な濃度のIFN-gとIL-17を添加することで,擬似的な腸管上皮における炎症を誘導することに成功した.そこで本年度は,この培養系を利用して遺伝子発現変動解析を行い,炎症障害を受けた腸管上皮で観察される遺伝子ネットワークの可視化を目指す.さらに,炎症障害からの回復過程にあるオルガノイドを用いて,幹細胞やニッチ細胞を除去することで,オルガノイドの生存能力に差がみられるか確認する.そして,これらの結果を統合的に解析することで,炎症から回復する上皮細胞に必要なシグナル経路の炙り出しを試みる.
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[Journal Article] Somatic inflammatory gene mutations in human ulcerative colitis epithelium2020
Author(s)
Nanki K, Fujii M, Shimokawa M, Matano M, Nishikori S, Date S,Takano A, Toshimitsu K, Ohta Y,Takahashi S, Sugimoto S, Ishimaru K, Kawasaki K, Nagai Y, Ishii R, Yoshida K, Sasaki N, Sato T, et al
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Journal Title
Nature
Volume: 577
Pages: 254~259
DOI
Peer Reviewed
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