2020 Fiscal Year Annual Research Report
炎症性・線維性微小環境による大腸がん転移促進機構の解明
Project/Area Number |
19H03498
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大島 浩子 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (80362515)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 転移 / 微小環境 / 繊維化 / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の研究グループは、大腸がん発生に関与する4種類のドライバー遺伝子、Apc、Kras、Tgfbr2、Trp53の全てに、ヒト大腸がんで認められるのと同じ型の変異を導入したマウスを交配により作製し、腸管に発生した腫瘍組織からオルガノイドを樹立した(以下、AKTP細胞)。AKTP細胞は、脾臓移植あるいは門脈注射により肝転移させる事が出来る。このモデルでは、免疫反応の正常なC57BL/6への移植が可能であり、ヒト大腸がん転移巣と類似した、線維芽細胞の増殖による間質増生と、マクロファージやリンパ球浸潤による炎症性微小環境形成が認められる。本研究では、このモデルを用いて、転移形成における宿主反応の関与について、炎症性微小環境形成、自然免疫反応、繊維化形成に関連する遺伝子欠損マウスを用いた移植実験による検討を実施している。これまでにAKTP細胞の肝転移形成に、PGE2受容体のEP4、Toll様受容体のTLR2/4、さらにTGFbeta経路が関与している可能性が示唆された。特にTgfbr2経路は、宿主マウスがTgfbr2遺伝子欠損マウスだと、転移巣形成が著しく有意に抑制され、それに伴い、alphaSMA陽性細胞数も有意に減少した。この結果から、TGFbetaシグナルが肝転移巣に形成される繊維化に関与していることが明らかとなった。GFPマウスからの骨髄移植実験から、alpha-SMA陽性細胞の多くがGFP陽性細胞ではなかったことから、これらの細胞は、骨髄由来ではないことが明らかとなった。これらの結果は、肝転移に関わる微小環境の形成に、肝臓に既に存在している肝星細胞(HSC)の活性化が重要である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、炎症性微小環境に重要な転写因子である、NFkB(p65)、及びStat3の遺伝子欠損マウス、また、自然免疫に重要な経路である、Toll様受容体のTLR2/4の遺伝子、およびMyd88欠損マウス、さらに、線維化に重要と考えられるTGFβ経路を遮断するためにTgfbr2遺伝子欠損マウスに、ヒト大腸がんで認められるのと同じドライバー遺伝子変異を導入したAKTP細胞を脾臓移植した。この結果、従来想定されたNFkBやStat3を介した炎症性シグナルは転移形成に重要な役割を果たしていないと考えられた。一方で、自然免疫に重要な経路である、Toll様受容体のTLR2/4の遺伝子欠損マウスでは肝転移巣形成が抑制された。しかし、TLRのコファクターであるMyd88遺伝子欠損マウスでは、肝転移巣形成が抑制されなかった。この結果から、Myd88を介さないTLR2/4シグナル関与が考えられたため、さらにマウスの個体の数を増やした検証実験が必要と考えられた。繊維性微小環境形成に重要であると考えられているTGFβ経路を宿主側のTgfbr2遺伝子欠損により遮断すると、最も有意に転移巣形成が抑制された。免疫組織学的解析の結果から、実際にalphaSMA陽性細胞が減少しており、このことから、TGFβ経路が線維性微小環境を形成し、転移形成に重要な役割を担っていると考えられた。また、肝転移巣形成に関わるalphaSMA陽性細胞の由来を検討するためにGFPマウスから採取した骨髄を移植し、AKTP細胞を脾臓移植した。この結果、alphaSMA陽性細胞の多くが、GFP陰性であったため、これらの細胞は骨髄由来ではない可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、昨年度の結果から得られた知見を基に、大腸がん肝転移巣形成における宿主反応の役割を明らかにするため、以下の計画を実行する。 (1)自然免疫反応による転移巣形成における役割について、TLR2/4遺伝子ダブル欠損マウスの個体数を増やし、AKTP細胞の脾臓移植による解析を実施する。さらに、コファクターであるMyd88欠損マウスでは、腫瘍形成が抑制されないため、Myd88が関与していないTRIFを介した経路について検討を行う。 (2)COX-2/PGE2/EP4経路も転移巣形成に重要である可能性が示されたため、経時的な組織学的観察を実施する。さらに、宿主側のEP4遺伝子欠損は、コンディショナル型変異のため、Tamoxifenの投与のタイミングを移植後1週間、2週間、3週間と変化させて、腫瘍細胞の血管外浸潤に重要なのか、肝臓へ転移巣が生着した後の生存に重要なのか、その後の増殖に重要なのか、について病理学的および免疫組織学的解析を行う。 (3)昨年度の結果から、肝臓に存在する肝星細胞の重要性が考えられた。しかし、肝転移巣の微小環境には様々な細胞が存在していて、これらの細胞の関与についても検討を始める。最初に、マクロファージの腫瘍形成への関与を検討するために、マウスにクロドロネイトリポソームを投与し、マクロファージを枯渇させた時の腫瘍形成について実験を行う。
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[Journal Article] Autophagy regulates levels of tumor suppressor enzyme protein phosphatase 6.2020
Author(s)
Fujiwara N, Shibutani S, Sakai Y, Watanabe T, Kitabayashi I, Oshima H, Oshima M, Hoshida H, Akada R, Usui T, Ohama T, Sato K.
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Journal Title
Cancer Sci.
Volume: 111
Pages: 4371-4380
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Inflammatory and mitogenic signals drive interleukin 23 subunit alpha (IL23A) secretion independent of IL12B in intestinal epithelial cells.2020
Author(s)
Lim KS, Yong ZWE, Wang H, Tan TZ, Huang RY, Yamamoto D, Inaki N, Hazawa M, Wong RW, Oshima H, Oshima M, Ito Y, Voon DC.
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Journal Title
J Biol Chem.
Volume: 295
Pages: 6387-6400
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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