2020 Fiscal Year Annual Research Report
イメージングを駆使した光免疫治療のメカニズム解明と汎用性向上へ向けた展開
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19H03593
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小川 美香子 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20344351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久下 裕司 北海道大学, アイソトープ総合センター, 教授 (70321958)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光治療 / PET / 光音響イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、PETおよび光音響によるインビボ分子イメージング法を用い、新しいがん治療法である光免疫療法(PIT)のインビボでのメカニズム解明を目指し、得られた知見をもとに、PITの汎用性・有効性の向上を目指した展開を図ることを目的としている。 2019年度までに、[18F]FMISOを用いた検討で早期に低酸素となった領域で治療効果が認められることが明らかとなった。そこで、2020年度は、MRIを用いて形態画像法での検討を行った。この結果、T2 WIでは、照射側腫瘍においては、光照射3時間後に腫瘍周囲に高シグナル部位が観察された。同様の変化はDWIにおいても観察され、PITによって、炎症性浮腫が腫瘍内部や周囲で生じることが示された。また、細胞内での薬剤の局在が異なる各条件で細胞に光照射を行った際の細胞生存率を検討した。この結果、細胞膜上に薬剤が局在する条件では、低い照射量でもがん細胞が死滅したが、細胞内にこの薬剤が取り込まれた場合は同じ照射量では傷害を示さなかった。すなわち、がん細胞の治療効果には、細胞膜上での凝集体形成が鍵となることを示した。一方、高照射条件では、内在化された薬剤が放出する活性酸素種による殺細胞効果も大きくはないがあることが判った。MRIにより観察され浮腫は、活性酸素が原因である可能性がある。 また、免疫抑制細胞に発現するCCR4を標的としたイメージング剤の開発を目指し、18F標識体および125I標識体の合成に成功した。 さらに、2020年度、生細胞の細胞膜を観察できるAFM顕微鏡を用い、PIT中のがん細胞膜の変化の様子を観察することに成功した。 αvβ3を標的化した小分子ペプチドを用いた薬剤についても検討を行い、抗体とは細胞死のメカニズムが異なる可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薬剤の凝集体形成が細胞障害の鍵であり、それに伴いがん免疫の活性化が起こることを検証するため、当初予定どおりMRIでの検討を行い、治療早期に浮腫が起こることを観察した。MRIにより観察された浮腫は、活性酸素種が原因となっている可能性も考えられた。また、免疫抑制細胞に発現するCCR4を標的としたイメージング剤の開発を目指し、昨年度までに前駆体合成に成功していた化合物の放射標識を行い、18F標識体および125I標識体の合成に成功した。 さらに、2020年度に、細胞膜上での凝集体形成が細胞死に重要であることを見出し、当初予定にはなかったが、本年度生細胞をAFM顕微鏡により観察することで、膜上での凝集体形成が起きている可能性を強く示唆した。
一方、長波長化・ペプチド薬剤の開発による汎用性・応用性向上に関し、光音響イメージングについては、2019年度に光音響イメージングを行ったが、ヘモグロビンの影響を排除できなかった。そこで、2020年度には、薬剤のみを用いてヘモグロビンの影響を排除し検討する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、東京での移動を伴う実験を行うことができなかった。よって、新型コロナウイルスの状況によるが、来年度に検討を行いたいと考えている。 しかし、αvβ3を標的化した小分子ペプチドを用いた薬剤について、治療効果の検討を進めることができ、ペプチドと抗体の治療効果の違いなどを見出した。さらに、標的による反応機構が違う可能性があることも細胞実験で見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに[18F]FMISOを用いた検討で早期に低酸素となった領域で治療効果が認められること、MRIを用いた検討により治療早期から浮腫が認められることが明らかとなった。また、がん細胞の治療効果には、細胞膜上での凝集体形成が鍵となることを見出した。一方、内在化された薬剤が放出する活性酸素種による殺細胞効果も大きくはないがあることが判った。さらに、MRIにより観察された浮腫は、活性酸素種が原因となっている可能性も考えられた。そこで、今後、細胞殺傷と浮腫発生の原理が異なる可能性があることを利用し、炎症がどのような時間スケールで消失するか、また、照射量や強度を変化させたときの浮腫の影響を検討することで、治療効果を最大としつつ浮腫を抑えた光照射法の探索を目指す。開発した新規イメージング薬剤についても今後、動物での評価をすすめる。2021年度にはPETおよびMRIを駆使し、治療効果を最大としつつ浮腫を抑えた光照射法の探索を目指す。 また、2020年度、PIT中のがん細胞膜の変化の様子をAFMで観察することに成功した。この手法を利用すれば、細胞膜傷害の機序の詳細が解明される可能性がある。今後、引き続き検討を進める。 光音響イメージングでは、IR700とヘモグロビンの吸収が重なり、マウスを用いた検討ではIR700凝集体のシグナルを得ることができなかった。そこで、レーザーの波長域が広いイメージング装置が使えれば画像化できる可能性があるため、まず薬剤のみを用いて検討を行うことを予定する。 αvβ3を標的化した小分子ペプチドを用いた薬剤と抗体を比較したところ、細胞死のメカニズムが異なる可能性が示された。2021年度は昨年度までに見出した事項について、インビボでの検討を進め、さらにその理由についても考察・検証することで、元来の目的のとおり、PITの汎用性・有効性の向上を目指した展開を図る。
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