2020 Fiscal Year Annual Research Report
バイオチャーが森林生態系の土壌圏と生態系炭素隔離機能に及ぼす中長期的影響の解明
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19H04237
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉竹 晋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 専任講師 (50643649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤嶽 暢英 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50243332)
川東 正幸 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 准教授 (60297794)
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
友常 満利 玉川大学, 農学部, 助教 (90765124)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バイオチャー / 森林生態系 / 炭素隔離機能 / 細根動態 / 栄養塩類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は野外におけるバイオチャー散布実験を通して、1)生態系の炭素隔離機能の中長期的変化と、2)その変化に関わる土壌圏の応答メカニズムを明らかにすることである。散布後5年目となる本年度も継続して、生態学的手法に基づく炭素循環プロセスの測定を実施した。地上部生産量に関して散布後3年までのデータの解析を終え、バイオチャーを散布することにより優占樹種であるコナラの肥大成長量や繁殖器官の生産量が増加することを明らかにし、論文として発表した。また、バイオチャー散布によってコナラの葉形質が変化して最大光合成速度等が向上することを明らかにし、論文として発表した。さらに、生態系からの炭素損失である土壌呼吸および従属栄養生物呼吸についてもデータ解析を進め、バイオチャー散布によってこれらが短期的には増加することを示した(論文投稿中)。 散布後1年半が経過したバイオチャーの表面を顕微赤外分光法で解析したところ、カルボン酸と飽和脂肪族炭化水素に由来する吸収が相補的に変化する傾向が認められた。このことから,微生物を主体とした被覆ができている可能性と表面における有機物の酸化分解過程の進行が考えられた。また,この傾向はサイズの大きなバイオチャー断片で顕著であった。 昨年度新規に開始した小区画でのバイオチャー散布実験において、スキャナ法による細根動態解析を行ったところ、生産率が増加する傾向が見られたが、観察用装置の埋設から時間があまり経っていなかったこともあり、観察画像によるばらつきが大きかった。今後、本法が有効になるとされている設置後1年以降のデータ習得を進めることで細根動態の変化を明らかにしていく。また、同区画において土壌浸透水の採取と溶存態有機炭素および溶存無機態窒素濃度の測定を行ったところ、バイオチャーの層状散布によって溶存態の炭素・窒素の垂直移動が変化する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
散布後3年間程度における地上部生産量の変化を明らかにすることができ、論文としてまとめることができた。また、そのメカニズム解明に資すると期待される、光合成活性の変化についても論文として発表した。また、土壌呼吸および従属栄養生物呼吸量の変化についても成果をとりまとめた(論文投稿中)。土壌圏の応答メカニズム解明に重要な各要素(地下部の細根動態、土壌浸透水、土壌環境)に関するデータ蓄積も順調に進んだ。バイオチャー散布が植物細根動態に及ぼす影響をより明確にするためには植物細根バイオマスの測定および生産量の推定を行う必要があり、本年度はそのための土壌サンプリング法およびルートメッシュ法を用いた測定の準備を行い、来年度以降の本格的な測定に備えた。 野外に散布して1年半が経過した経過したバイオチャー表面を顕微赤外分光法による解析したことで、野外に散布したバイオチャー自身の変化を明らかすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
野外の森林生態系に対するバイオチャー散布の影響を包括的かつ中長期的に明らかにするために、今後も継続して生態学的手法を用いて生態系の炭素循環プロセスの定量を行う。散布後3年間での結果では純一次生産量の一部に増加傾向が見られた一方で従属栄養生物呼吸も増加したため、生態系の炭素収支自体には大きな変化が起こっていないことが示された。しかし、バイオチャー散布が生態系炭素循環に及ぼす中長期的な変動については不明であり、これを明らかにするために同じ手法を用いて測定を継続していく。また、これまで考慮されていない地下部生産量に関する要素(細根生産量や根滲出物量)についてもデータを取得し、バイオチャーを散布することによる生態系炭素循環の変化をより精密に把握していくことが重要である。そのため、来年度にはルートメッシュ法や連続コアサンプリング法などを用いて細根生産量の推定を行う予定である。また、バイオチャー散布によって個葉の光合成活性に正の効果が出ていることから、バイオチャー散布が細根からの滲出物量にも影響する可能性がある。今後、野外での根滲出物採取・定量について検討していく。また、バイオチャー散布区における土壌炭素賦存量の測定や土壌有機炭素の質的解析も実施する予定である。 バイオチャーがどのように有機物等を収着するのかを明らかにするために、バッチ法による収着実験を予定している。また、野外に散布されたバイオチャー自身も経時的に変化していくと考えられるため、散布後3年後のバイオチャーについても本年度と同様の表面解析を実施する。また養分供給との関わりについても総合的に考察する。
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Research Products
(3 results)