2021 Fiscal Year Annual Research Report
海洋酸性化が沿岸生物の世代交代、群集・個体群構造に及ぼす長期影響評価
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19H04288
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
高見 秀輝 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), グループ長 (50371802)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 正裕 公益財団法人海洋生物環境研究所, 海生研実証試験場, 研究員 (20444870)
井上 麻夕里 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (20451891)
小埜 恒夫 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(横浜), 主幹研究員 (40371786)
酒井 一彦 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (50153838)
井口 亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (50547502)
村岡 大祐 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), グループ長 (30371800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キタムラサキウニ / 造礁サンゴ類 / アマノガワテンジクダイ / 海洋酸性化 / 長期飼育 / 世代交代 |
Outline of Annual Research Achievements |
キタムラサキウニでは、二酸化炭素濃度が約400ppmの原海水および約800ppmの酸性化した海水で4年以上飼育した個体を親として用い、これらから得られた子について、酸性化環境に対する応答を調べた。具体的には、原海水で飼育した親から得られた子を同じく原海水で飼育する対照区、原海水の親から得られた子を酸性化海水(800ppm)で飼育する非順化区、酸性化海水の親から得られた子を親と同様の酸性化海水で飼育する順化区を設定し、各実験区で発生した幼生が稚ウニに着底・変態するまで飼育した。2、4、6腕期プルテウス幼生の腕長、左右腕長の比、および飼育期間中の死亡率には各実験区間で有意な差は認められなかった。変態後の稚ウニの形成基盤となるウニ原基は、8腕期のプルテウス幼生で形成され始め、その形成率は対照区、順化区、非順化区の順で高かった。幼生から稚ウニへの変態率は、対照区よりも非順化区と順化区で大幅に低下した。また、変態後の稚ウニの殻径は対照区で最も大きく次いで順化区、非順化区の順となった。以上から、キタムラサキウニの初期発育における酸性化影響(約800ppm)は、ウニ原基の形成で顕著となり、その後の変態率の低下や稚ウニ殻径の小型化につながることが推察された。これらの影響は、非順化区よりも順化区の方が小さかったため、酸性化環境で飼育された親から生産された子では軽減される可能性が示唆された。 造礁サンゴについては、次年度に予定している2つの実験のために、二酸化炭素調整装置の調整を行い、コユビミドリイシの放卵放精時期に予備実験を実施した。 アマノガワテンジクダイでは、第3世代稚魚の急性毒性実験を引き続き実施し、対照区生産稚魚の実験が3回中2回、850ppm区生産稚魚の実験が3回中3回および1,200ppm区生産稚魚の実験が3回中3回終了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キタムラサキウニの飼育実験では、令和2年度にコロナ禍で共同研究者の実験施設への立ち入りが制限されたことが影響して計画よりも約1年の遅れが生じたため、実験の規模や期間を縮小・短縮するなどして対応している。 造礁サンゴについては、コロナ禍が継続したことによって、二酸化炭素調整装置の維持管理を依頼していた研究協力者および業者が造礁サンゴの実験場所に来られず、特に屋外型装置の調整が進まず、予備実験も実施できなかった。 アマノガワテンジクダイでは、第3世代稚魚の急性毒性実験において、対照区稚魚の実験をあと1回実施する予定だが、対照区親魚の産卵状況が悪く、実験を実施できない状況である。親魚の組合せを変えるとともに、親魚の産卵水槽の数を増やして対応した。
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Strategy for Future Research Activity |
キタムラサキウニでは、これまで得られた飼育実験結果および飼育海水中の二酸化炭素濃度を解析し、世代間における酸性化環境への応答を明らかにする。また、ウニの棘および殻の微量元素分析(Mg/Ca比、Sr/Ca比)、および飼育海水の化学分析(Mg/Ca比)を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)にて行い、酸性化がウニの石灰化に及ぼす影響を地球化学的側面から考察する。成長速度や成熟過程など生物データとの比較も行い、生理学的な影響が棘や殻の化学組成に影響を与えていないか引き続き検証する。 アマノガワテンジクダイでは、これまで実施した産卵実験及び毒性実験のデータを解析しとりまとめを実施する。 造礁サンゴ類では、高温に弱いハナヤサイサンゴを対象に、成熟した群体を400と1000 ppmの二酸化炭素濃度で飼育し、成長と有性生殖を定量化する。また産卵時期には、コユビミドリイシの配偶子を受精させ幼生とし、400-1000 ppmで飼育し、酸性化が幼生の生存、定着・変態に及ぼす影響を短期間で検討する。 遺伝子解析に関しては、ウニ類、魚類、造礁サンゴ類のRNA-seqデータの解析を進める。各実験処理区で得られたサンプルからショートリードデータを取得し、レファレンス配列にマッピングして発現量の定量化を進める。発現に有意な変化が見られた遺伝子群から、どのような生理的機能に変化が生じているのかを予測し、過去の研究情報と比較して論文化を進める。
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