2019 Fiscal Year Annual Research Report
Comparative Study on LGBT Rights in 6 Latin American Countries
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19H04371
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
畑 恵子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 名誉教授 (60164836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 奈々 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, その他(招聘研究員) (00731449)
近田 亮平 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 研究企画部, 海外研究員 (20466072)
松久 玲子 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (40239075)
尾尻 希和 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (40408456)
磯田 沙織 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70812064)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | LGBT / 性的マイノリティ / 権利保障 / 国際人権法 / 市民社会 / 民主化 / 宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に設定した研究課題は、1.担当国のLGBT権利保障の今日までの経緯と現状の把握、2. 主要アクターへのアクセスを可能とするネットワーク構築、3.促進/阻害要因に関する仮説構築もしくは各国で特に注視すべきテーマの洗い出しの3点である。 研究会は3回開催し、毎回、各自の進捗状況を報告し、知見の共有と意見交換を行った。第2回研究会では谷口洋幸氏(金沢大学准教授)を招聘し、「国際人権法における性的マイノリティの権利保障」と題して、国際社会における議題化、人権保障の具体的な項目等についてお話しいただいた。先行研究の欧州中心主義と米州人権条約体制研究の不足の指摘を受けて、本研究の意義と課題を再確認した。第3回研究会にあわせて、3月末には他の科研グループとの共催で、海外から2名を招きミニシンポジウムを開く予定であった。だが新型コロナ感染によってアルゼンチンからの来日が中止となり、メキシコ・首都自治大学(UAM)M・トレス教授のみを囲み、「メキシコにおける同性愛解放運動と同性婚」に関して、他国との比較も交えて意見交換を行った。 代表者・分担者は5カ国(アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、ペルー)で現地調査を実施した。研究者、政党・政治家、教会関係者、当事者、支援団体等から聞き取りを行い、2020年度以降の調査に向けてのネットワークを築いた。ニカラグアに関しては現地の事情から調査を見送り、メキシコで関連資料・情報を収集した。 LGBTの権利保障そのものを論じた論文発表は畑(代表者)「性的マイノリティと人権」(『福祉社会へのアプローチ』所収)、上村(協力者)「現代メキシコにおける性文化の混淆実態」、学会発表は磯田(分担者)「ペルーにおけるマイノリティ議員の誕生とその課題」の3本であったが、関連領域での学会発表、論文・書籍の刊行等、積極的な発信にも努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ予定どおりの順調な進展であった。その理由は、各自が担当国の現在に至る過程と現在の問題点を整理し、現地調査を通して研究者、政治家、市民活動家などと連携できる研究基盤を築き、2020年度に向けた各自のテーマ等の絞り込みを進めたことによる。具体的には下記のとおりである。 畑(代表者)は文献調査にもとづき、1990年代末からのメキシコの動向に主眼を置きつつ、ブラジル、アルゼンチンにおける権利保障の概要を把握し、粗い比較ではあるが論文(書籍の1章、2020年秋刊行予定)にまとめた。メキシコ現地調査では、とくに研究者、市民活動家との連携関係を築くことができ、laicity(政教分離)の脆弱化とそれがLGBT関連政策に与える影響が重要なテーマの一つであるとの認識を得た。 分担者においては、近田はブラジルでの調査に加えて、沖縄・那覇、名護で研究者、行政、市民組織への聞き取りを行い、地方自治体をベースにした下からの制度について新たな知見をえた。松久(ニカラグア担当)は文献調査により、1970年代から今日までの「性の権利活動」の系譜とLGBT政策との関わりを整理し、社会運動論からの分析を試みようとしている。尾尻はコスタリカにおける1990年~2020年5月(同性婚合法化予定)の流れを明らかにし、国際人権条約、米州人権条約に照らして考察することを新たな課題とした。渡部はアルゼンチンで教育現場におけるLGBTイシューや包括的性教育の実施状況を調査し、プロテスタント系教会にも今後の調査に向けての足掛かりを築いた。磯田はペルーの国会議員等へのインタビュー等から、LGBTイシューが選挙戦略化や政治争点化しないだけでなく、忌避さえもされている現状を確認し、その解明を課題として設定した。メンバー全員にとって今後の研究の進展につながる基礎固めができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
各国の現状把握および代表者・分担者の個別研究に関しては、テーマが絞られてきたが、それと並行して本プロジェクト全体の課題である「比較」を視座にいれた横断的研究を進めねばならない。各国の現状把握には、各自の関心からくる力点の違いがある。本研究ではそのような違いは尊重すべきであるという立場であるが、少なくとも、権利保障の是非・その範囲に何らかの影響を持つと考えられる主要な政党、宗教団体、市民組織(当事者組織も含む)等の活動や姿勢、そして国際人権法の動向や米州人権裁判所の勧告的意見等に関する政府や社会の受け止め方については、共通の必須項目として情報収集に努め、各国の概要を把握・整理することが必要となろう。 研究は各自の文献調査、現地調査を柱として進められるが、新型コロナ・パンデミックの状況次第では海外渡航や研究会活動が制約されるかもしれない。そうした事態に備えてネット等も活用して、まずは各自が各国の状況を報告する機会を増やし、各国事例を比較という土俵に乗せることを考えたい。そして中間的な成果として、2020年度中に「比較視点をもった共同研究」という形での学会発表を行うことを目指す。各自の研究テーマに関しても、積極的な成果発信に努める。 また、2020年3月末に他の科研グループとの共同企画で開催した国際研究集会は、結局、海外から一人しか来日できず、しかも感染予防のために参加者を制限せざるを得なかったが、非常に有意義であった。今年度の開催は難しそうだが、私たちの成果を現地の研究者に問うていく場として、同様な研究集会の企画を検討していきたい。
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