2021 Fiscal Year Annual Research Report
Fusing nanomaterials and strong electric field nonlinear optics for new advances in photonics
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19H05465
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金光 義彦 京都大学, 化学研究所, 教授 (30185954)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
田原 弘量 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20765276)
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Project Period (FY) |
2019-04-23 – 2024-03-31
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Keywords | 高次高調波発生 / 半導体 / 半導体ナノ構造 / 非線形光学 / 高強度テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特色ある電子状態を持つ固体結晶やユニークなナノ物質を創製できる物質科学と最先端の高強度レーザー技術を融合し、強電場光科学の深化と応用展開を図ることを目指して研究を推進している。ハロゲン化鉛ペロブスカイトナノ粒子は高い発光効率を示す欠陥の少ない光学材料であり、粒子サイズと組成を変えることでバンドギャップエネルギーを広い範囲で変えることができる。特に強いスピン軌道相互作用によるマルチバンド構造と光のコヒーレントな相互作用は、超高速光変調の有望な手法のひとつと期待される。CsPbBr3ペロブスカイトナノ粒子を用いて、可視領域から近赤外領域での励起子エネルギーシフトの異常な変化を発見し、3準位アウトラータウンズ効果へのクロスオーバーによりエネルギーシフトが大きく増加することが原因であることを明らかにした。また、ペロブスカイト半導体薄膜おいて、ナノ共振器のフォトンとフォノンが強く結合したドレストフォノンの形成による真空ラビ分裂の観測に成功し、新しい量子現象を引き起こす可能性があることが分った。固体における異方性構造をもつブロッホ電子が引き起こすダイナミクスの新奇な性質を探索するため、20fs程度の時間幅の高強度赤外パルス光源の開発に成功し、半導体単結晶試料に対して高次高調波発生の偏光状態や結晶方位異方性を精密に測定した。その結果、励起光電場の増加により非摂動的な励起領域に移行する過程で、高調波の偏光・異方性が劇的かつ多彩に変化する様子が観測され、背後にある超高速な非線形キャリアダイナミクスの情報が敏感に顕れることが明らかになった。また、パルス光の位相を利用した分光法である位相ロックパルス分光によって、ナノ粒子における高調波コヒーレンスを計測した。高調波コヒーレント信号の振動振幅がナノ粒子間結合によって増大する量子協力効果を明らかにすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、特色ある電子状態を持つ固体結晶やナノ構造物質の光学応答を精緻な先端レーザー技術により解明し、新しいフォトニクス技術としての強電場光科学の深化と応用展開に挑戦する。空間・エネルギー的に電子状態を制御できるナノ物質や特徴的な電子構造を持つバルク結晶の電子運動をレーザー電場で精密に操作し、高次高調波発生などの強電場下で起こる現象の本質的な理解を得るとともに新たな分光技術の開発を可能にする強電場光科学分野の創成を目指している。この目的を達成するために、バンドギャップに比べて小さなフォトンエネルギーを持つ高強度な中赤外光やテラヘルツ光パルス発生技術が必要となる。特に、高次高調波発生と光電場パルスの位相との関係を明らかにするために、キャリアエンベロープ位相が固定された中赤外パルス光源の開発を行った。周波数分解光ゲート法(FROG)による評価によって、2サイクルの電場周期をもつ20fs程度のパルス時間幅であることが分った。この中赤外光パルスを励起光として、バルクの半導体単結晶試料における非摂動的な高次高調波発生を観測し、その偏光状態や結晶異方性を精密に測定するため反射配置での偏光分解高調波分光系を立ち上げ測定を行った。その結果、非摂動的な強励起条件では発生する高調波の偏光が劇的に変化する様子が観測され、この振る舞いが従来の光学測定では観測不可能な広い波数領域の固体バンド構造の情報を反映していることが分った。この結果は、従来の摂動論的な非線形光学現象の範囲では説明できない高次高調波独自の現象であり、高次高調波発生の本質的な理解につながる重要な結果である。光電場に追従した電子応答の計測に向けた位相ロックパルス分光では、ナノ粒子における多電子量子状態のコヒーレント応答の観測に成功し、さらにコヒーレント応答の光電流検出法の構築に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成するために、今後も物質科学と高強度レーザー技術を融合し、強電場光科学の深化と応用展開を図ることを目指して強力に研究を推進していく。非摂動高次高調波の特性を明らかにするために代表的な直接遷移半導体であるGaAsの高次高調波の研究を行う。また、ディラック分散という特徴的な電子状態を有するグラフェンなどの単原子層物質に対して高次高調波発生の実験を進める。今後は、これまでに開発したキャリアエンベロープ位相が固定された中赤外光源を用いて、高次高調波発生と電場の位相との関係を明らかにし、特色ある電子状態を持つ固体やナノ物質における高調波発生メカニズムを明らかにするとともに発生効率の極限的な向上を目指す。さらに、位相ロックパルスを利用することで、光電場に追従した電子コヒーレント応答を時間領域で計測し、集団ナノ粒子結合系における多電子状態の非線形光学応答の制御を行う。また、高い電場強度を持つテラヘルツパルス発生技術とナノスケールの人工構造に適用し、テラヘルツ領域での新たな非線形光学現象の開拓を目指す。特に、空間反転対称性が破れた超格子構造を持つ超伝導体に着目し、無冷媒式超伝導マグネット装置により外部磁場を印加しながらテラヘルツパルスを照射することで、磁場とテラヘルツ電場の相対関係によって超伝導の振る舞いが異なる非相反応答を探索する。また、スピン軌道相互作用が大きく反転対称性が破れた半導体では特異な時空間キャリアダイナミクスが期待され、二次元ハロゲン化鉛ペロブスカイトを対象に新たな非線形光学の開拓を行う。以上のように、特色ある電子構造を持つ半導体に加え量子物質における強電場下での非線形光学応答に関する研究を進めていく。
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