2020 Fiscal Year Annual Research Report
Search for a critical point and first order phase transition of high density quark-nuclear matter via higher order fluctuations and particle correlations
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19H05598
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江角 晋一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10323263)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北澤 正清 大阪大学, 理学研究科, 助教 (10452418)
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Project Period (FY) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン・プラズマ / 高エネルギー重イオン衝突 / QCD相図 / 臨界点 / 1次相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子色力学(QCD)で決まるクォーク核物質のQCD相図は、高温領域の滑らかな相転移と質的に異なり、高密度領域に予測される豊富な相構造、つまり1次相転移や臨界点の有無に注目が集まっている。本研究の計画において、原子核の衝突ビームエネルギーを走査することにより、相図の高温領域から高密度領域への相構造の変化を調べる。特にその1次相転移や臨界点が存在するかどうかを調べるために、BNL研究所のRHIC加速器を用いたSTAR国際共同実験グループにおいて、原子核衝突における揺らぎや粒子相関のビームエネルギー依存性を測定した。これまでの第1期ビームエネルギー走査実験において測定してきた陽子-反陽子数分布の4次揺らぎの最終結果、指向型・楕円型・及び高次の方位角異方性などの多粒子相関に関する結果を学術論文として出版した。特に高次の揺らぎの解析において、データ解析における技術的な問題を解決するために、高多重度の重イオン衝突において、粒子の多重入射による非線形な検出効果に対する逐次型展開補正手法をはじめとした、揺らぎ物理のための様々な解析技術・手法の開発を行なった。これらの解析手法を導入して、保存量分布の高次形状に非単調なエネルギー依存性を測定し、臨界点の兆しとなりうる信号を観測した。また、測定領域の拡大等を含む改善をした粒子検出器を用いた高統計の第2期ビームエネルギー走査実験の遂行に関しては、衝突型実験モードと固定標的実験モード双方の測定が、予定通り順調に進んでいる。さらに、固定標的実験モードによる試験的実験結果を公表し、衝突型実験モードのみによった実験では、到達が難しかった低い衝突エネルギー領域での粒子相関などの実験的測定の有効性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1期ビームエネルギー走査実験において測定した正味陽子数分布の高次揺らぎの最終結果を得た。特に高多重度の重イオン衝突において、粒子の多重入射による非線形な検出効果に対する新たな逐次型展開補正手法を揺らぎ分布の測定に実際に適用して、遂に「陽子-反陽子数分布の4次揺らぎに見える非単調な変化の兆候」を正式に公表するに至った。本研究計画の実験研究グループと理論研究グループによる共同研究体制により、この新たな解析手法の技術的な開発を行い、長年の懸案事項が解決できたのである。これにより、ネット・バリオン保存量分布の高次形状に非単調なエネルギー依存性を測定し、臨界点の兆しとなりうる信号を観測した。また、固定標的実験モードによる試験的実験による指向型・楕円型方位角異方性や2粒子HBT相関に関する測定結果を公表し、さらに低いエネルギー領域での固定標的実験モードでの測定の有効性を示した。それらの結果をまとめ、本研究課題に関連する最大の国際会議CPOD2021において、STAR実験を代表して講演を行ない、これまでのビームエネルギー走査実験の成果を報告した。 2019年度より開始した第2期ビームエネルギー走査実験(7-20GeV領域)は、新型コロナウイルスにより2020年序盤に一時中断を余儀なくされたが、実験時期を数ヶ月ずらし、ほぼ予定通り衝突実験データ収集を進めている。現在2021年4月時点では、衝突型実験モードでのエネルギー走査期間としては約8割のデータ収集を既に完了し、最終の3年目の測定を衝突型実験モードでの最低エネルギーとなる核子対あたり7.7GeVの衝突エネルギーで、金原子核同士の衝突実験を行っている。さらに固定標的実験モード(3-10GeV)の衝突実験を行い、さらに低い衝突エネルギー領域での測定を遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
第2期ビームエネルギー走査実験の衝突実験データ収集を完了し、物理解析を進めるためのデータ校正を行い、高次揺らぎと多粒子相関に関する物理解析を推進する。また将来実験の計画・準備を進める。実験データ収集時には、粒子検出器の制御や収集データの質的・量的なモニタリングを行い、最終結果を引き出すのに十分な実験データが収集できているかどうかを調べる事が重要であり、特にコロナ禍の現状では、BNL研究所現地への往来や滞在が困難な共同研究者の責務でもある。 BES1期間のデータ解析によって培った物理解析のノウハウを活かし、特に中心衝突度と反応平面に関する解析技術、及び高次揺らぎ解析における様々な補正技術を駆使して、これら(高次揺らぎと多粒子相関)の物理データ解析に適用する。特に、高次揺らぎに関する実験データの物理解析においては、(1)実験的な中心衝突度を決定する測定分解能などによって決まる寄与と、(2)物理的理論的な初期の体積が揺らぐ寄与に加えて、(3)さらに揺らぎを測定するために観測する粒子と中心衝突度を決定するために観測する粒子の間に働く物理的な相関からくる寄与などの全てを検討・差し引きした結果として、(4)衝突系の相関長や臨界点信号を反映すると期待される、本来求めたい揺らぎの成分を実験的に引き出す。また実験・理論の共同研究グループの協力によって、このような様々な寄与を含む実験的な測定を説明できる物理モデルの検証と、これらを分離する新たな解析手法の開発を行う。特に、保存量となる粒子数分布の揺らぎと、系の温度や形状など、膨張・発展の効果を含む運動量情報により得られる平均横運動量分布や、平均方位角異方性分布などの揺らぎとの間の相関に注目し、これら様々な寄与を分離するための測定を推進する。
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Research Products
(40 results)