2019 Fiscal Year Research-status Report
移動、越境する大衆娯楽:中国における社交ダンスの受容と再生に関する文化史的研究
Project/Area Number |
19K00145
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
大濱 慶子 神戸学院大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (30708566)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大衆娯楽 / 社交ダンス / 上海租界 / 日中舞踏交流史 / 移動と越境 / 中国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀中国の三つの社会変革期(中華民国期、中華人民共和国建国期、改革開放期)における社交ダンスの系譜を跡付け、ペアダンスが民衆の中からどのように興隆し、時代を超えて再生し、「国標舞」という新たな舞台芸術のジャンルを切り開くに至ったかについて、文化史的観点から明らかにすることを目的としている。初年度は、これまで個別に論じられてきた日本と中国の社交ダンスのつながりや連鎖性に着目し、中華民国期と大正・昭和初期の大衆娯楽の発展、日中の社交ダンスの受容、ダンスホールの発展状況を比較検討すると同時に、上海租界へ渡った日本人ダンサー(舞女)の実態の解明に取り組んだ。具体的な実施状況は以下の通りである。
1)史料の調査、収集:上海図書館・徐家匯蔵書楼における未発掘史料の調査と国会図書館、神奈川近代文学館における関連史料の収集、日本と中国の近代社交ダンス専門誌、雑誌、新聞記事の収集を行った。これらの史料から日本人ダンサーの上海租界への移動の背景、経緯を可能な限り跡付け、国境を跨ぐ活動を検証し、この時期、世界各都市に同時に現れた新種の流動層である職業ダンサーの位置づけを再考した。 2)海外の研究者を招いた学術講演会の開催。中国ジェンダー研究会との連携により、台湾・中央研究院近代史研究所の游鑑明氏との学術交流会、同研究会の須藤瑞代氏の協力を得てカナダ・ヨーク大学ジョアン・ジャッジ教授の講演会を開催した。近代中国と大衆娯楽に関するアジア及び北米の研究状況についての知見を深め、多くの研究者と多角的な視点から実りある議論を行った。 3) 国際シンポジウム・学会での発表:お茶の水女子大学ジェンダー研究所・中国女性史研究会共催の国際シンポジウム「踊る中国:都市空間における身体とジェンダー」及び日本現代中国学会第69回全国学術大会で発表し、研究成果の発信に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画は主として、民国期租界における社交ダンスの受容、発展と日本との関連について検証することであり、具体的には1)国会図書館や上海図書館で近代の社交ダンスに関係する原文資料を収集し、データの蓄積を図り、1920年代租界へ渡った日本のダンス関係者の活動を分析する、2)多民族が交わる租界の娯楽文化やダンスの表象・言説を多角的に考察するため、国内外の専門家と学術交流の機会を持ち、意見交換を行うことを予定していた。1)の資料調査に基づいて、「越境する日本人舞女と民国期上海租界のダンスホール-日中近代史の周縁の再考-」と題する論考を『中国女性史研究』第29号に発表し、2)では当初の計画より1件多い以下の研究集会を開催することができた。 ・2019年6月20日 台湾・中央研究院近代史研究所游鑑明氏との学術交流会「從中國知識分子的歴史記憶談性別與娯樂」(於立命館大学朱雀キャンパス) ・2020年2月9日 カナダ・ヨーク大学 ジョアン・ジャッジ教授講演会“Visuality and Sexuality in Republican China: Experience, Method, and Photograph in the Periodical Press”(於京都産業大学むすびわざ館) いずれも計画通り順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は民国期から人民共和国期へという中国の政治、経済体制の転換期における社交ダンスの読み替えと娯楽文化再生の問題について取り上げる。具体的には以下の研究を進める。 1)1950年代の娯楽文化再編とソ連の舞踏が建国初期の「交誼舞」再創出に与えた影響について検討する。ロシア語が専門の共同研究者の協力を得て、ロシア語資料を用いた調査を実施する。 2)1950年代に流行した中国の社交ダンスについては、現存している文字資料が限られていることから、現地での質的調査を並行して実施し、社会主義改造下における「交誼舞」の再創出と社会階層の再編、新婚姻法の徹底、この時期特有の人的移動との関連を掘り下げて明らかにする。 3)毛沢東も踊ったとされる「国際交誼舞」についての史料を収集し、冷戦構造や第三世界勃興という当時の国際情勢も視野に入れ、その実相を検証する。さらに文革期を経て、改革開放直後、なぜ中国全土で社交ダンスの熱狂的なブームが再燃し、社会現象になったのか、これと対照的に低迷していく日本の社交ダンスの変遷と比較し、日中ペアダンスの相違の解明へとつなげていく。
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Causes of Carryover |
初年度に計画していた上海租界の社交ダンスに関する文献資料収集について、中国の研究者の協力により多くの資料を電子データで入手することができ、また近代の文献や業界雑誌のバックナンバーなどの一次資料を直接購入することができたことなどから、現地資料調査の旅費にかかる支出が当初の予定を下回った。
生じた次年度使用額については、初年度に収集した文献、雑誌、新聞記事のデータベース化や資料整理にあてる。また2年目は国内外の資料調査を継続して実施すると同時に、ロシア語資料の調査や中国における質的調査を行い、社会主義建設時期の社交ダンスの再生とその社会的な作用について明らかにしていく。調査のための旅費やテープ起こし、翻訳作業にかかる研究経費を有効に使用する予定である。
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