2019 Fiscal Year Research-status Report
フィレンツェ美術にみるダンテ『神曲』の視覚化-彼岸の測量と地理学を中心に
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19K00169
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
石澤 靖典 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (20333768)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ルネサンス美術 / 人文主義 / ダンテ / 死生観 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本研究では15-16世紀のイタリア人文主義におけるダンテ『神曲』理解が、同時代のルネサンス美術にどのような主題および芸術論上の新たな評価軸をもたらしたのかを検証するものである。とりわけダンテが描写した彼岸の三界―地獄、煉獄、天国―に対し数学的・地理学的な分析を試みたフィレンツェ人文主義における一連の註解書を調査対象に据えている。令和元年度は考察の重点を15世紀におき、数学者兼建築家のアントニオ・マネッティの活動と、そのマネッティによる「地獄の計測」研究から派生した一連の視覚表象の関連性を整理した。とりわけマネッティの諸説を初めて紹介したクリストフォロ・ランディーノ註解版の『神曲』印刷本(1480年、フィレンツェ刊)では、いまだその数値や整合性において不完全さが見られ、「試論」の域を出ていなかったものが、1506年にフィレンツェで上梓された『神曲』小型版本では、地獄の形状を視覚化する挿絵が追加されたばかりでなく、その計測にまつわる議論においてもより精度が増している点を検証した。現在、これら二つの版をつなぐ出版経緯を再構成することにより、『神曲』に対する科学的アプローチと同時代の地獄イメージとのかかわりを具体的に明らかにする論考を準備中である。 (2)ボッティチェッリの『神曲』挿絵は1480年代から90年代にかけて長い時間をかけて制作されたと考えられている。とりわけ冒頭の《地獄の断面図》がマネッティの研究と何らかの関係性を持つことは以前から指摘されてきたが、一方でその形状が必ずしもマネッティの数値に対応していないことも明らかであった。この点について本研究では、ボッティチェッリの挿絵がランディーノの註解版より10年以上遅れて制作された点に着目し、上記の1506年版『神曲』が成立するまでの中間点に位置づけることで、地獄の視覚表象の生成過程を跡付けるうると想定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)初年度に設定した、ランディーノ版『神曲』註解とその視覚化の伝統についての調査は概ね予定通り進んでいる。ランディーノ版(1480年、フィレンツェ刊)は、15、16世紀の画家が『神曲』を読む際の標準テキストであったが、本研究ではとりわけその序文の「地獄の場所、形体、大きさ、および巨人とルチフェロの背丈について」と題する論考に焦点を絞って考察を進めている。これに1506年にフィレンツェで刊行された小型の『神曲』印刷本を比較対照させ、後者においてより発展し具体化した「地獄の空間表象」から遡及的にイメージの形成過程を分析することにより、80-90年代の地獄の視覚化をめぐる議論の経緯を再構成しうると想定している。 (2)年度末にダンテの挿絵入り版本の実見調査をフィレンツェおよびローマで実施する予定だったが、新型コロナウイルスの流行にともなう海外渡航禁止措置により、海外調査は次年度冬以降に持ち越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)1506年版『神曲』(フィレンツェ刊)とランディーノ版『神曲』序文のテキスト比較をおこない、その分析結果を公表する。 (2)ボッティチェッリの『神曲』挿絵の他、ジュリアーノ・ダ・サンガッロの素描入り印刷本(ローマ、ヴァリチェッリアーナ図書館)の調査を進める。 (3)15世紀における煉獄の空間化に関する議論と「地獄」図との関連性について考察する。 (4)アレッサンドロ・ヴェルテッロ註解による『神曲』印刷本(1544年、ヴェネツィア刊)に関する文献調査をおこなう。
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Causes of Carryover |
(理由) 年度末に予定していた海外調査が、新型コロナウイルスの流行にともなう海外渡航禁止措置により中止せざるをえず、次年度冬以降に遂行するよう予定を変更したため、旅費に割り当てていた予算の一部が繰り越しとなった。 (使用計画) 次年度冬以降に海外調査をおこない、不足していたフィレンツェおよびローマでの資料収集を補完する。この調査のために、前年度に旅費として割り当てていた予算の一部を使用する。加えて年度末にもう一度、海外調査をおこなう予定だが、こちらは当初予定していた令和2年度分予算を使用する。
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