2019 Fiscal Year Research-status Report
文化環境との関わりからみた即興演奏技能の発達―イラン音楽を事例として
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19K00251
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷 正人 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (20449622)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イラン音楽 / 即興演奏 / 民族音楽学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年8月から2020年1月までイランに滞在し、フィールドワークを行った。具体的には谷自身がより深く参与観察するために、研究計画書で言及されているタグのうち「言語リズム」「古典詩の世界観」「音組織」「楽器固有の身体性」「口頭性」について、個人的インタヴュー及びレッスンを重ねることで理解を深めることをまず当面の目標とした。 1.即興演奏内で如何に言語リズムおよび古典詩の世界観が規範として機能したり或いは逸脱しているのかという点においては、マハムード・キャリミー伝承のラディーフ(伝統的旋律型集)内で歌われる古典詩の韻律分析作業と音楽のリズムとの関連性について作業を行った。 2.即興演奏内での音組織(ダストガー)の規範と逸脱については、主に、ミルザーアブドッラー伝承のラディーフを対象として、その構造を分析するとともに、その構造に基づいた即興演奏及び作曲を行い、両氏に添削してもらうことで、音楽創作においての規範と逸脱について具体的な助言およびその背景にある美学を抽出することができた。 3.即興演奏内での楽器固有の身体性にかかる規範と逸脱については、楽器固有の奏法や語彙が即興演奏の中で如何に意味を持つものなのか、声楽特有の技法がいかに器楽奏法の中に浸透しているのか、タール奏法がいかにサントゥール奏法に影響を与えているのか、などについて多くの知見を得た。 4.即興演奏内での「口頭性」については、本研究では「楽譜に縛られない、旋法間の自由な移動や横断」と解釈したうえで、旋法間の移動の多くのサンプルを収集するとともに、その理論的整合性についても裏付けを行った。結果、楽譜としてラディーフに示されている規範のみならず、イラン音楽の口頭性に基づいた世界観の中では、旋法間の移動や横断には大きな自由度があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
谷は2019年8月から2020年1月までイランに滞在したが、9月に家族の健康上の理由のため一時帰国せざるを得なくなった。また再渡航後の11月にはイランの政情不安のためインターネットが2週間ほど完全遮断となりデモ激化のため外出もできなくなった。また2020年1月には再度政情不安による大使館勧告のため、当初の帰国予定より2週間ほど早めに帰国することなった。そのため、不十分というほどではないものの、当初予定していたデータが十分には手に入らなかったため。また3月末に研究発表予定であったイラン研究会もコロナのため開催されなかったため、アウトプットの機会も失ってしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はコロナのためイランに再度調査に出向くことが難しいため、データ整理および研究成果発表のための時間とする。また可能ならばオンラインで現地のインフォマントと連絡を取りデータを取る方法も模索する。2021年にはコロナ収束を期待して、再度調査に行くことを予定している。 また昨年度の研究成果の一部を含む書籍をスタイルノート社から出版予定である。
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