2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00373
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
上原 徳子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (50452917)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中国古典小説 / 中国近代知識人 / 林語堂 / 翻案小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、主に先行研究の調査と、文献の調査収集を主な活動とした。また、中国古典小説研究会の大会に参加し国内外の研究者と交流し、広く知見を得た。文献調査では、主に海外で出版されている明代小説の英訳本を広く収集することができた。結果として、短編白話小説「三言」の英語翻訳版を収集できた。英訳本を調査した結果、次の二点が問題であることがわかった。一つは、ごく初期に英訳された中国古典小説の選択基準である。多くが愛情を扱っており、異国情緒を強調する内容となっている。二つ目は、当時訳者が比較的入手しやすい中国古典小説を使用したのではないかという疑問である。前者については、西洋から見た中国文化という従来の視点と、中国人自らが自分たちをどのようなイメージで理解させようとしたのかという問題をはらんでいる。二点目は、中国外にどれくらいの、またどのような小説が流通していたのかより明確に把握する必要性を浮き彫りにした。これらは、二年目以降の研究活動にいかしていきたい。 また、現在の研究情況を踏まえて、英語による論文一編を作成、投稿した。(査読中)当該論文では、一連の調査に基づき、19世紀末から20世紀初頭の東アジアにおける「小説」概念について林語堂の英語による翻案作品を元に考察した。考察の結果、現代中国に導入されたフィクションの概念は、前近代中国の文化の中に、いわゆる「小説」としてすでに存在していたと結論づけることができ、林語堂は古典小説を近代化することなく英語に書き換えることで、古典小説の近代性を実証したとした。これは先行研究とは違った考察であり、今後検証を続ける必要があろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度における文献の調査、収集、そのまとめとしての論文執筆(査読中)ができたことから、進捗状況としてはおおむね順調と評価する。結果として、当該論文は年度中に公刊されなかったことから、今年度の業績とはみなされなかった。ただし、年度末に予定していた遠隔地の図書館での調査、また海外での調査は、新型コロナウイルス流行の影響を受け断念せざるを得なかった。今後の計画も見直しが迫られると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
もともとの計画では、二年目の研究では、調査に基づいての論文執筆や学会発表(海外を含む)、さらには英国での文献調査をするはずであった。しかしながら、現在日本国内においても移動の制限が続くことが予想され、国内学会すらその開催については先行きが不透明である。国内を移動しての図書館での調査もいまだ困難な情況が続いている。 19世紀末から20世紀初頭の古典小説の英訳及びその出版や受容情況についての海外での調査は、現在の情況では今年度は断念せざるを得ず、来年度以降にもちこすしかない。現在の所属機関の図書館を通じてできるオンラインでの調査に切り替える。しかしながら、在外華人の活動記録、英語による初期の中国文学史の編纂情況の調査、及び主に林語堂の英訳古典小説の出版をめぐる資料と当時の新聞の書評の資料の調査が、日本国内からどれくらいできるのか調査が不足している。図書資料の収集についても、書店や大学事務の縮小により、年度のうちどれくらい正常にできるのかわからない。これは、図書館業務の縮小も同じで、見通しは不透明である。 また、学会発表についても、予定通りできるとは限らないため、論文執筆と投稿を従来計画していたよりも多くできるよう、スケジュールの調整をする。
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Causes of Carryover |
年度末に予定していた関東方面への文献調査が新型コロナウイルスの感染拡大により中止せざるを得なかったこと。海外への調査も同様に実行できなかったことが理由である。次年度以降、計画を見直して、研究を遂行していく。具体的には、海外渡航をしての資料調査ができない代替措置として、所属機関の図書館および国立国会図書館等のデータベースを使うことを検討する。状況によって図書館そのものの利用に制限があることも考えられるが、現在のところ予測は非常に難しいため、状況に応じた対応をしていきたい。また、出席を予定していた国内外の学会も中止あるいは開催形式の変更が考えられ、研究成果については、主には、口頭発表ではなく、論文の投稿によって発表機会を確保することが必要になろう。資料の収集についても特に海外からの物流の滞りにより、通常より時間がかかることが予想される。研究に必要な資料の確保に当たっては、十分に情報を収集した上で、時間的な余裕も勘案する必要が出てくると思われる。
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