2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K00373
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
上原 徳子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (50452917)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中国古典小説 / 翻案 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、本研究の最終年度であり、調査分析と成果の発表を同時に行うことを予定していた。オンラインと国内機関を中心に調査を行い、並行して分析と成果発表を行った。予算の残額から、欧米での調査は不可能であったことから、台湾での調査を想定していたが、本予算による海外調査は実行できなかった。そこで、前年度に引き続き、古典小説の現代における受容の一つとして、2015 年公開の侯孝賢監督による映画『刺客聶隱娘(邦題は『黒衣の刺客』)』についての分析を進めた。この映画は国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した武侠映画である。論文では、監督自身や脚本制作に携わった人々の意図を彼らのインタビューやメイキング本に基づいて検討した。脚本の製作段階では、歴史資料に基づいて正確な描写を目指し、ヒロインが刺客として暗殺にいたる理由を現代の観客にわかりやすくする努力がなされた。その結果、映画は原作と異なる構成となったが,完成した映画では脚本の饒舌さがそぎ落とされ,観客自身が画面外の物語を含めて鑑賞する作品となった。この翻案が,紆余曲折を経て古典小説と同じように多くを語らない表現に行き着いたところにこの映画の特徴が有ったのであり、その表現方法自体が古典受容の一つの形だったという結論を得た。この論文の作成と並行して、古典小説の英訳に関する書籍の収集、林語堂の英訳作品に関する文献の収集を進めたが、論文として年度内に完成させるには至らなかった。研究の開始からまもなくしてコロナ禍となり、思うように研究が進められなかったこと、できる調査の質から、当初の見込みとは違い、林語堂の英訳を足がかりに当時の知識人の小説意識を探るのではなく、現代における古典小説の受容という方向での考察を進めることになったことも影響した。この方向性のずれも、今後の中国古典小説の受容研究という意味で、研究の一つの方向性を示すことはできたと考える。
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