2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00386
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中村 隆 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (00207888)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホガース / 版画と漫画 / 版画の貨幣価値 / ポルノグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴィクトリア朝の『パンチ』における漫画の生成発展を考察する際に不可欠である18世紀のホガースに関する研究を集中的に行なった。研究成果は、以下にまとめることができる。 (1)ホガースの版画は、特に連作版画において、漫画の基盤となる「コマ割り」を有しており、ホガースは、のちの漫画の祖型であることがわかる。ただし、漫画の原型のもう1つの代表格であるスイスのテプフェールの戯画・漫画に比べると、ホガースの版画は、流動性(動作の連続表現)や軽みに乏しい。漫画風にいえば、劇画タッチの精密な細部の描写がホガースの一大特色である。 (2)ホガースの版画が持つ貨幣価値について考察した。この方面の先行研究はきわめて手薄な分野であり、本研究が提示する斬新な研究である。たとえば、ホガースの『娼婦一代記』(6枚の連作版画)の値段は当時の値段で1ギニーだった。1ギニーは、1.05ポンドであるが、当時の1ポンドは、等価物の比較考察から、日本円で約42,000円と推定される。1ギニーはしたがって、約44,000円である。 (3)ホガースの版画に頻出する「乳房」の意味の解明をした。この分野は従来、等閑視されており、新しい視座を確保したと考える。ホガースの版画が卑猥な要素を持っていることは、誰が見ても自明であるが、ホガースの版画が実はポルノグラフィーの伝統を組み込む形で成型されていることが、ホガースのエロスの根本理由である。ホガースは性器の描写を超えてはならない一線として自重していたが、当時の版画の購買者が熱望していたエロス的需要に応えるものとして「乳房」の要素を組み込む必要があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヴィクトリア朝を代表する漫画週刊誌である『パンチ』の原型を跡づけることは、本研究が、その解明を目指す重要項目だった。ホガースの版画が漫画の祖型であることについて、多様な要素から成り立つことが証明できたという点で、三年目の区切りとして、一定の成果をあげることが出来た。 ホガースについての考察に関しては、中間報告として、大部の報告書をまとめることができた。タイトルは、『ホガースの時代ー版画で読むイギリス』で、A5版で、90頁である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のホガースについての中間報告書である『ホガースの時代ー版画で読むイギリス』をさらに深化させ、A5版で、220頁の著書を、山形大学出版会から出版する。これについては、山形大学出版会の編集委員会から、2022年の4月の中旬に出版許可を得た。 その出版費用は95万円の予定であるが、その一部として、本科研費をあてさせていただく。 それとは別に、「『パンチ』を読み解く」と題して、本科研の研究成果の集大成をする。
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Research Products
(1 results)