2019 Fiscal Year Research-status Report
多言語性の否定と肯定―ルーマニア・ドイツ語文学に見る言語アイデンティティの諸相―
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19K00490
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 道男 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20187769)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マイノリティ / ブコヴィナ / トランシルヴァニア / イディッシュ / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、第一次世界大戦後にルーマニアのマイノリティとなったユダヤ系およびドイツ系ドイツ語詩人や作家が自らの背負う多言語性に対して示した一見相反する姿勢に着目し、多言語性が彼らの文学の形成に果たした役割を考察する。ルーマニア・ドイツ語文学は、ドイツ文学研究で次第に注目を集めているが、国民文学観に基づく文学史観の桎梏から解放されることは現在もなお難しい。マイノリティの視座から従来の文学評価に新たな照射を行う学際研究であり、書籍化やデジタル化されていない重要な資料の発掘と部分的公刊も企図している。 本研究では、藤田(研究代表者)と鈴木(研究分担者)が従来携わってきた研究テーマとの親近性に基づき、藤田がブコヴィナ、鈴木がト ランシルヴァニアを担当しているが、相互に情報交換し、総合的に議論を行っている。 2019年度、藤田は、ブコヴィナのユダヤ系ドイツ語詩人たちのメンターとされるアルフレート・マルグル=シュペルバーについて、両次大戦間期の詩作と活動を中心に論考をまとめた。前年に開催されたシンポジウム『東欧文学の多言語的トポス』での発表を、本研究の視点を踏まえてさらに発展させた論である。多民族多言語が共住する地域でユダヤ系ドイツ語話者が抑圧されていく現状への文学的抵抗について、テクスト分析の充実、さらに彼らの「カノン」として意識されたゲーテへの視線に重心を置いて考察した。末尾でマルグル=シュペルバーたちとイディッシュ語文学との関係について示唆をしており、本研究の前提となるものである。 鈴木は19世紀後半以降のトランシルヴァニアでドイツ系住民が、ルーマニアやハンガリーなどの各集団との関係を意識しつつ団結を強めていくなかで、ドイツ古典主義の詩人フリードリヒ・シラーを崇敬していく経緯を、生誕や没後の記念祭を切り口に明らかにし、そのような土壌がナチズム受容で果たした役割について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者はルーマニアのシビウで現地調査を行った。著名な作家で牧師のエギナルト・シュラットナー師にインタビューをご承諾いただき、またフリードリヒ・トイチュ・ドイツ文化センター内ルーマニア福音主義教会アウクスブルク信仰告白派中央公文書館兼図書館で両次大戦間期に刊行されたドイツ語新聞や文化雑誌などにおけるブコヴィナのユダヤ系ドイツ語詩人たちの寄稿を収集した。 研究分担者はオーストリア国立図書館およびウィーン大学図書館で、両次大戦間期トランシルヴァニアにおけるドイツ系住民と他の言語や民族集団との関係にかかわる文献を数多く確認することができた。 さらに研究代表者は、第二次世界大戦終結直後のルーマニアで刊行された貴重かつ希少な著作を古書として複数入手できた。 これらの資料は、本研究にとって重要な基盤となるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者および同分担者は2020年度も引き続き、ドイツのシュトゥットガルトの国際関係研究所、ルーマニアのシビウやオーストリアのウィーンなどでの上記諸機関における調査とインタビューによる情報収集を行い、そのうえで研究成果を日本独文学会や東北ドイツ文学会などで発表することを予定している。 しかしながら、2020年5月現在、COVID-19の感染を阻止するべく当該各国への渡航が禁止されている。今後の状況の変化を踏まえて、海外調査の実現について判断する。なお並行して、デジタル化された資料を入手するべく最大限の努力を行い、研究成果の発表につなげるつもりである。
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