2022 Fiscal Year Annual Research Report
多言語性の否定と肯定―ルーマニア・ドイツ語文学に見る言語アイデンティティの諸相―
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19K00490
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 道男 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20187769)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マイノリティ / ブコヴィナ / トランシルヴァニア / イディッシュ / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、第一次世界大戦後にルーマニアのマイノリティとなったユダヤ系およびドイツ系ドイツ語詩人や作家が自らの背負う多言語性に対して示した一見相反する姿勢に着目し、多言語性が彼らの文学の形成に果たした役割を考察した。ルーマニア・ドイツ語文学はドイツ文学研究で注目を集めているが、国民文学観を踏まえた文学史観の桎梏からの解放は現在もなお難しい。マイノリティの視座から従来の文学評価に新たな照射を行うべく、書籍化やデジタル化されていない重要な資料の発掘と部分的公刊も企図した。 藤田(研究代表者)と鈴木(研究分担者)が従来携わってきた研究テーマとの親近性に基づき、藤田がブコヴィナ、鈴木がト ランシルヴァニアを担当しているが、相互に情報交換し、総合的に議論を行った。 2021年度も引き続き、コロナ禍により日本国外での調査が不可能となった。そのため古書の入手と、公開されているデジタル資料収集に重点を置いたが、国外での調査が必須であるため、繰越を申請した。2022年秋に国外渡航の条件が緩和されたため、2023年3月にオーストリア国立図書館で調査を行った。 藤田は、引き続いてブコヴィナのユダヤ系ドイツ語詩人たちのメンター的存在とされるアルフレート・マルグル=シュペルバーや詩人アルフレート・キットナー等と同地出身のイディッgシュ語詩人イツハク・マンゲルとの関係について資料を整理した。東欧におけるドイツ語文学に関する、より広い視野を得つつある。鈴木は2020年度までに、ルター派が大きな力を持っていたトランシルヴァニアのドイツ系住民コミュニティにおいて、ナチズム受容と並行し、ドイツ古典主義の詩人フリードリヒ・シラーが「国家社会主義者」として歪曲されるに至った経緯を啓明したが、それを踏まえてさらに、トランシルヴァニアにおけるルターとシラーの関係に関する言説を分析し、論文にまとめた。
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