2019 Fiscal Year Research-status Report
検閲と自己懲罰:ロシア帝国とソ連における文学テクスト生産メカニズムの考察
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19K00497
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 検閲 / ソ連文学 / 社会主義リアリズム / ロシア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の欧米の検閲研究は、国家権力や検閲機関による事後的・禁止的検閲ではなく、書く前から書き手に内面化され、書き手に書くことを促す、生産的で不可視の西欧近代的検閲のあり方を重視している。ソ連研究でも同様に、公式文学規範のもとで作家となったソ連の書き手たちが、自身の完璧な検閲官となり、外在的検閲の意義が低下したと論じられる。だが極度の言論統制下にあったソ連と、一定の言論の自由が保証された西欧近代の検閲を同一の枠組みで捉えることには無理がある。実際、ソ連では、検閲規範の内面化と同時に、外在的・可視的検閲が大々的に行われた。本研究は、当該年度、ソ連の公式文学である社会主義リアリズムの作品分析や、現代のソ連文化研究の検討を行い、二種類の検閲(内面化された検閲と外在的な検閲)の関係性を考察することによって、ソ連の検閲と西欧近代的検閲の違い、そしてソヴィエト的主体と西欧近代的主体の違いについて論じた。特に、ソ連の作家によって内面化された、社会主義リアリズムの規範(内面化された検閲)が、主人公(ソヴィエト的主体)の身体の自己破壊という外在的暴力に拠って立つナラティヴであったことに着目し、この外在的暴力のナラティヴがいかに外在的検閲を必要したかについて論じた。さらに、この外在的暴力の内面化(自己破壊)という問題から、西欧近代的主体とは異なるソヴィエト的主体形成のあり方について論じた。 日本ロシア文学会では、ソ連文学研究の世界的権威であるE.ドブレンコを迎え、ロシア・ソ連の文化生産をテーマとしたパネルを開催し、本研究従事者は上記の議論に関して報告を行った。また『ロシア文化事典』では、ロシアとソ連の検閲の歴史やソ連文文学に関する項目を担当執筆した。『ロシア文化55のキーワード』では、社会主義リアリズム小説における暴力の内面化の問題、自己植民地化過程としてのソ連の強制労働と公式文化の関係などを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画では研究実施期間の後半に行うことになっていたソ連の公式文学体制における検閲を、前倒しして、研究実施初年度の2019年度に行った。これは、ソ連の公式文学や言論統制に関する研究の世界的第一人者であるE.ドブレンコが来日し、本研究従事者の研究にアドバイスをもらえる機会を得たからである。このように、研究の順序を一部変更した以外、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度、研究順序を変更したので、その状況を踏まえて、順次、他の研究事項を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
研究出張と文献収集の機会が予定よりも少なく、物品費、旅費を予定したほど使わなかった。次年度は、状況によるが、海外出張・文献収集の機会が増える可能性があり、次年度使用額をそれらに充てたいと考えている。
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Research Products
(4 results)