2020 Fiscal Year Research-status Report
検閲と自己懲罰:ロシア帝国とソ連における文学テクスト生産メカニズムの考察
Project/Area Number |
19K00497
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 検閲 / ソ連文学 / 社会主義リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度はまず、ロシア・ソ連の文化生産をテーマとした令和元年度日本ロシア文学会のパネルでのソ連の検閲に関する口頭発表をまとめ、学会誌で報告した。そして、この報告の議論を大きく拡張して、ソ連文学の検閲が、西欧近代的な不可視の内面化された検閲とは異なり、可視的で外在的な検閲であることを主張する論文を作成した(令和3-4年度に発表予定)。この論文においてはまず、1920-1930年代というソ連公式文学(社会主義リアリズム)の形成期における文化的・政治的言説の転換に着目して、1920年代における身体の精神への優位、そして両者の連続性(一元論)から、1930年代における精神の身体への優位、そして両者の切り離し(二元論)へという転換を通して、社会主義リアリズムのテクストを成り立たせる論理が形成されたことを示す。さらにこの論理が、外在的検閲(精神による身体の抑圧、身体暴力の可視化)を必要とするものであったことを明らかにする。主な分析対象としては、ミハイル・ショーロホフの作品に対する検閲事例を扱っている。この分析を通して、近年欧米のソ連文化論で集中的に論じられてきたソヴィエト的主体化の問題についても、外在的・身体的暴力の問題や、検閲による暴力(強制収容所)の隠蔽という観点から、再検討を行っている。 また強制収容所の隠蔽や、ソ連体制による検閲の問題を告発したソ連の作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンの諸作品を、情報論的観点から分析した論文を発表した。この論文では、ソルジェニーツィンがサイバネティックスに深い関心をもち、ソ連体制へのオルタナティヴとして、外在的で可視的な権力なしに稼働するサイバネティクスの自己準拠的システムの可能性を探究すると同時に、その情報論的限界を明らかにしていることを論じている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度に引き続き、研究計画の後半に行う予定であったソ連時代の検閲について取り組んだ。感染症拡大により、計画していたロシアでの資料収集ができなかったが、国内で収集できた資料を使用して、おおむね予定通りに研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度も、国内外の図書館での資料収集が難しいことが予想されるが、ILLなどを利用して可能な範囲で資料を集め、柔軟に研究を進めていく。令和元年度と令和2年度、研究計画を変更して、研究計画の3-4年目の課題を先に行ったので、研究後半期に入る令和3年度は、1-2年目にやることを予定した帝政期の検閲の研究に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度、ロシアや日本国内の図書館・文書館で資料収集をしたり、国内で移動して学会発表に参加する計画を立てていたが、感染症拡大により出張ができなくなり、旅費に支出できなくなったため。次年度は出張ができるようになるものと考えている。
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Research Products
(2 results)