2021 Fiscal Year Research-status Report
検閲と自己懲罰:ロシア帝国とソ連における文学テクスト生産メカニズムの考察
Project/Area Number |
19K00497
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (60600814)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 検閲 / ロシア文学 / ドストエフスキー / ソ連文学 / 社会主義リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間の2年目に行う予定であった研究(ロシアの社会構造の近代化を目指すアレクサンドル二世の大改革の一環としての検閲改革が、F.ドストエフスキーの作品とどのような関係をもっているかの検討)を、予定を変更して、3年目の今年、実施した。検閲改革で制定された「臨時規則」(1865)により事前検閲が一部免除とされることになったため、出版社や作家は、事後検閲の可能性を想定し、逆説的にも、自己検閲をより強化するようになる。本研究では、ドストエフスキー『悪霊』に対して実際に出版社が行った掲載差し止め処置、差し止めされたテクスト、差し止めを受けてドストエフスキーが書いた修正テクストなどを分析対象として、大改革時代の検閲メカニズムが、抑圧的な社会制度であったというよりは、テクスト生産の促進や近代的主体形成(検閲を内面化させた自己懲罰的主体の形成)に深く関係していたことを明らかにした。研究成果は、8月の国際学会において口頭発表した。 また、本研究の2年目におおよその考察を終えたソ連・社会主義リアリズムの検閲メカニズムについても、スターリン時代のテロルとの関係性から議論を見直し、11月に口頭発表を行った。それに先立ち、6月には、社会主義リアリズムとテロルや強制収容所の関係性の問題と、現代ロシア社会・文化における懲罰的主体形成に関する口頭発表を行った。さらに、6月に刊行した『ロシア文化 55のキーワード』においては、同じく、強制収容所や社会主義リアリズムの項目や歴史の章の概説を担当し、ソ連における懲罰的制度や自己懲罰的主体形成の問題を、国内植民地化という問題に関係させて解説した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初の研究計画の前半(帝政期)と後半(ソ連期)を入れ替え、令和元年度・2年度にはソ連期に関する研究を行ったが、研究期間の後半となる今年度は、本来、前半に予定していたロシア帝政期の検閲の問題に取り組み始め、おおむね順調に考察を進めることができた。ただし、感染症の影響で、学外・国外での資料収集ができなかったので、今後、議論を補強するための資料調査が必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、学外・国外での資料収集が可能になってくると思われるので、過去3年間にできなかった資料調査を行って、議論の補強をしていきたい。ただし、国際情勢によりロシアでの資料収集はしばらく困難になると思われるので、ロシア以外の海外の図書館や文書館で可能な範囲での調査を行っていきたい。研究内容については、引き続き、帝政期の検閲の研究に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
本年度も感染症拡大の影響で、学外・国外での資料調査ができなかった。また3回の口頭発表(うち一つは海外での発表が予定されていた)はすべてオンラインで実施され、旅費として使用予定だった額を使うことができなかった。 次年度は、感染症対策のさまざまな制限が緩和されると思われるので、国外での資料調査や口頭発表のため、旅費として助成金を使用することを予定している。
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Research Products
(4 results)