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2019 Fiscal Year Research-status Report

国家変容と国民文学運動に関する事例研究:近代ハンガリーの文学団体とカノン形成

Research Project

Project/Area Number 19K00498
Research InstitutionOsaka University

Principal Investigator

岡本 真理  大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (10283839)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords近代 / ハンガリー文学
Outline of Annual Research Achievements

本研究課題は19世紀前半から20世紀初頭までの近代ハンガリーにおける国家の変容における文学のあり方を対象とするが、その中でも今年度は、20世紀初頭の作家コストラーニの政治的な立ち位置に焦点を当てた。国家変容とともに文学運動の主体は変化し、国民文学形成を志向して求められる表象も変化する。20世紀初頭のオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊とそれに続くブルジョア民主革命では、新しく設立したヴェレシュマルティ文学団体が王政の廃止と民主主義の実現を後押しした。これは翌年の共産主義革命とともに即座に解体され、それと同時に左派作家らによる新たな文学団体(ディレクトリウム)が立ち上げられたのもつかの間、革命崩壊後の王政復古によって、今度は逆に社会主義者らが粛清され,左派の作家らは国外へ亡命した。以上のようなめまぐるしい政治的変化の中に生き、コストラーニは自分の半生を長編小説『エシュティ・コルネール』に描いた。今年度はこの小説の翻訳および出版を実現させ、それと同時に、所収の解説論文では、近代ハンガリー文学のカノンとなった詩人たちが書いた革命や社会正義と、その近代文学の流れに一石を投じるコストラーニの自伝的小説のあり方を分析した。同小説の主人公「エシュティ」像を分析すると、合理主義では説明しきれない複雑で矛盾し、怪奇な性質もおびた捉えどころのないその存在が、政治の紆余曲折に翻弄された近代文学の状況を象徴していること、いわゆるカノンを批判的に再考させるものへと繋がっていくことが見えてくる。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

今年度の成果として、小説『エシュティ・コルネール』の翻訳(近代ハンガリー文学における作品の意義を論じた解説論文所収)の出版、これらに関連する口頭発表を数回行った。以下にその概要を記す。
本作品は作家コストラーニの伝記でもあり、風来坊エシュティが語る旅行記でもあり、またエシュティが体験する不思議な世界を描いた小説でもある。エシュティは、中年を過ぎ、文豪としての評価を揺るぎないものにしたコストラーニが、その社会的成功や評価や責任と引き換えに捨て去ろうとした、あるいは抑圧してしまった妄想症的、神経症的、過敏で突飛のない矛盾に満ちた本来の自己である。それは、みずみずしい詩的感受性を持ち続ける「永遠の子ども」である一方で、残虐なものやおぞましいものに惹きつけられるグロテスクな「悪魔」である。また、他人の苦しみに心から寄り添う「無垢の人」である一方で、時に冷酷非情で社会の秩序や合理性を笑い飛ばす諧謔的な「あまのじゃく」でもある。その姿はハンガリーが政治的混迷を深める時代に、矛盾したような政治的立場を見せていた作家本人に重なる。
近代ハンガリーのカノンの到達点ともみなされたアディを、その死後10周年の1929年に多くの作家が論文でその業績を賛美し、「アディ崇拝」を再確認し合った時、コストラーニはひとり大胆で手厳しいアディ批判論文を発表し、「ほんの些細な批判も許さない“アディ崇拝”の文学的状況が、文学的言論の自由を侵し、停滞を招いている」とハンガリー文学界の危機を訴えたが理解されず、逆に大批判に晒される結果となった。
アディのカノンにまつわるこの事件からは、近代ハンガリー文学のカノン形成においては社会進歩と革命性が主要な思想となり、教条的ともいえるほどの支配的なあり方であったことが浮かび上がった。

Strategy for Future Research Activity

近代ハンガリー文学の出発点から1848年革命に至る時代に遡り、この時代にどのようにカノン形成がされたのかを検討する。
啓蒙主義の時代に近代ハンガリー文学の夜明けを迎えてのち、1820年代から1848年革命期にいたる文学活動の中で、ハンガリー性への希求や革命が中心的テーマとなっていく過程を考察する。

  • Research Products

    (4 results)

All 2019

All Presentation (3 results) (of which Invited: 1 results) Book (1 results)

  • [Presentation] 近代ハンガリー文学という文脈におけるコストラーニの「エシュティ」像2019

    • Author(s)
      岡本真理
    • Organizer
      日本ウラル学会
  • [Presentation] 大平原の小さな文化都市~世紀転換期のサバトカ2019

    • Author(s)
      岡本真理
    • Organizer
      EU文芸フェスティバル
    • Invited
  • [Presentation] コストラーニとチャートの町サバトカ2019

    • Author(s)
      岡本真理
    • Organizer
      日本ハンガリー学会
  • [Book] エシュティ・コルネール もう一人の私2019

    • Author(s)
      岡本真理
    • Total Pages
      311
    • Publisher
      未知谷
    • ISBN
      798-4-89642-592-5

URL: 

Published: 2021-01-27  

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