2021 Fiscal Year Research-status Report
富山大学付属図書館所蔵小泉八雲旧蔵書(ヘルン文庫)書き込み調査の推進
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19K00515
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中島 淑恵 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (20293277)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラフカディオ・ハーン / ヘルン文庫 / 比較文学 / 俳句 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス蔓延状況に鑑み、2021年度は外国出張が困難となり、また、外国から研究者を招聘しての国際シンポジウム等の開催も困難となった。そのため、富山大学附属図書館収蔵の小泉八雲旧蔵書(ヘルン文庫)における書き込み調査とそのデータベース化という基礎作業に立ち戻って研究を行い、成果を論文等の形で発表した。 とりわけ、ハーンにおけるわが国固有の文芸である俳句、和歌の受容について、研究を深めることができた。とりわけ、自らは日本語を読めなかったハーンが、どのようにして和歌や俳句の内容を理解し、それを自らの作品の中で英米の読者に紹介していたかについて、詳細に調査することができた。アメリカ時代のハーンはすでに日本固有の「小さな詩」が存在することをもっぱらレオン・ド・ロニーの『詩歌撰葉』などから知っていたが、俳句についてあるいは句作や句会についてとりわけ深い知識を得たのは、来日後のことであり、来日前の日本の詩歌についての理解と、来日後の理解については大きな隔たりがあることが分かった。このようなより詳細な日本の詩歌、中でも俳句についての理解は、松江の尋常中学校、東京帝大でもハーンの学生であり、門弟として長らくハーンに仕えた大谷正信によるところが大きいことも解明できた。また、このような俳句理解は、ハーンの同時代の欧米人においては最初期のものであることも改めて確認することができた。ハーンが作中で紹介している俳句の諸相については、引き続き継続して研究を進めたいと考えているし、ハーンの著作が1920年代以降の世界的なハイカイ・ブームの中でとのような役割を果たしたのかについても継続して考察を行ってゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のように新型コロナウイルス蔓延状況に鑑み、マルティニークおよびモーリシャスでの現地調査は2020年度、2021年度については不可能であった。また、国内調査を行う予定もあったが、これも基本的に同じ理由で不可能であり、ハーンの日本理解について、とりわけハーンが言及している日本海沿岸、松江、熊本、神戸、焼津、東京での現地調査と、これら日本の民話や伝承と、マルティニークおよびモーリシャスの民話との比較については、今後の研究の課題となった。 これに反して、富山大学附属図書館収蔵ヘルン文庫の書き込み調査および文献調査についてはかなりの進展が見られ、ハーンの俳句理解についてはとりわけある程度の実証と考察の深化をもたらすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまで推し進めてきた富山大学附属図書館収蔵ヘルン文庫の書き込み調査および文献調査を行うと同時に、とりわけ俳句理解について、文献調査、現地調査を行いたい。とりわけハーンの門弟であった大谷正信について金沢、広島等で詳細に調査する予定である。また、焼津に関する著作に特に着目し、焼津でのハーンの生活や焼津関連の著作でハーンが紹介している民話や伝承について、実際に現地調査や文献調査を行いたいと考えている。また、本研究をさらに推進するための新たな科学研究費補助金(基盤研究C)も採択されているので、本研究で解明しきれなかった点については、そちらの研究によって補完できるものと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額を利用して、ハーンの作品中に現れる民話や伝承の聞き取り調査および文献調査と、ハーンの作品中俳句に関する記述に関連した現地調査および文献調査を行う予定であり、継続して富山大学附属図書館所蔵小泉八雲の旧蔵書の書き取り調査もさらに推進する予定である。
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