2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00576
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
児玉 望 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (60225456)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アクセント / 位置アクセント / 語声調 / 韻律構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
構造主義的観点からのアクセント変化と系統樹の再建という課題に関しての拙論の現在の状況を2本の論文にまとめた。 長田俊樹編著『日本語「起源」論の歴史と展望 : 日本語の起源はどのように論じられてきたか』所収の論文「日本語アクセント史の再建をめざして」においては、モスクワ学派のエフゲニー・ポリワーノフと服部四郎の二人に焦点を当てて、ポリワーノフが日本語アクセント研究に1910年代というきわめて早い時期に持ち込んだ構造主義的分析が長く顧みられず、戦後に至ってアクセントの共時的分析において「アクセント素」分析に基づく構造主義的分析を確立した服部四郎も、通時的研究においてはそれ以前に成立していた音声的再建を目指し構造変化を考慮しない研究法から脱していないという点を批判的に論じた。 この論文で、「ポリワーノフ最後の宿題」としたアクセント変化の構造主義的説明について、現段階での拙論をまとめたのが紀要論文「アクセント核はどう変わるか」である。通説における音声的「高」の位置変化を、アクセント核が位置を保持したまま、アクセント核の音声的実現において、核音節と核次音節のどちらの側が弁別的かが変わることによる(無自覚で規則的な)音声変化として説明する。通説の根拠として京都周辺の文献資料から実証される「上げ核→降り核→下げ核」の中央式・内輪式の変化に対し、東日本と西日本においては「上げ核→昇り核→下げ核」という変化があったとみられることを主張し、本土方言のほとんどの体系が共通の位置アクセント祖体系からの分枝として説明できることを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた現地調査と学会発表が昨今の状況では当面行えない状況ではあるが、研究初年度において、理論的な立場を大筋でまとめることができている。この理論的立場の応用として、すでに持っている談話音声資料の分析を整理された形で韻律構造に応じてマークアップする方法を開発することにより、方言音声談話資料の言語資源としての有用性を向上させうることを示していく見通しを立てている。
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Strategy for Future Research Activity |
拙論において日本語系統史の問題として残る最大の課題は、本土方言側では九州西南部の方言がすべて位置アクセント祖体系の分枝とみられるか、あるいは、琉球方言と同様に、位置アクセント祖体系の成立以前の分枝を含んでいるかという問題である。この問題は、二型アクセント・一型アクセントといった、語の型所属だけで判断がつく問題ではない。各方言の談話音声資料、韻律構造を文節音・音節構造、アクセント単位の構造、イントネーション構造といった多元的観点からの分析とその比較が重要である。 九州内の談話音声資料の韻律構造分析の記述を、本土方言側・琉球方言側と対照できるような方法で進めていく。
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Causes of Carryover |
Covid19発生に伴う緊急事態のため、2月・3月に予定していた研究会への出席と現地調査が実施できなかったため。 学会発表と現地調査については、次年度以降に繰り越す。 今年度については、談話音声資料の分析と音声資源の分析・発表のために支出する予定である。
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Research Products
(3 results)